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日中いぶこみ百景

愛の言葉を中国語で

日本で出ている中国語の学習月刊誌がある。そこで,「中国語で愛を伝えるには?」という特集をするという。面白そうだ。期待した。

 我爱你(愛している)

 我喜欢你 (好きだ)

の他に,どんな言い方があるのか。

 号は7月号。7月といえば七夕だ。七夕は「中国の“情人節”」つまりバレンタインデーと言われている。ぴったりの企画なわけだ。

 

 雑誌が届いて,あっと驚いた。まず載っていたのが詩経のことばだからだ。

「関関たる雎鳩は 河の洲に在り 窈窕たる淑女は 君子の好逑」

誰でも聴いたことのある一句である。確かに愛にかかわる文句ではあるが,こちらの興味とは違う。これで愛を伝えるのは我らには考えられない。

 ともあれ,この手の先秦・両漢の時代の言葉が並んでいる。

 次は唐代で,これもおなじみ,長恨歌の一節がでていた。

 在天願作比翼鳥 在地願為連理枝 

 「天にあっては、願わくは比翼の鳥となり, 

 地にあっては、願わくは連理の枝とならむ」

あまりに有名すぎて,却って使うのがためらわれる。

次の一句は宋代の蘇軾の作だが,これは使えそうだ。

 但愿人长久,千里共婵娟。

 「ただ願う,人の長く久しきを,千里離れていても月をともにす」

“婵娟”とは月のこと。これはテレサテンの歌でも有名だ。大体,月に言及したなら,それは相手への思いを表す。いまはそばに居ない相手に思いを馳せ,共に月を観ていると思うのである。

このように現代に近づいてくると,それらしいのが散見される。

明,清になると紅楼夢から引用されたりする。

それにしても,中国のような,長い文化の伝統をもつ国では,ここまで古典の言葉に惹かれるのかと思わずにはいられない。

 

 

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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