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日中いぶこみ百景

中華料理の丸テーブルが消える日

2020年の四月,五月。新型コロナウイルスの名を聞かぬ日はない。当たり前のように繰り返されてきた日常はすでに変容を迫られている。

 コロナウイルスが去った後の世界はどうなるのか。

 いち早く感染爆発が起こり,いち早く収束を迎えた中国。しかし,何かがこれまでのあり方と違ってきているようだ。

 中国人にとって「食」ほど大事なものはない。よく知られているように,「こんにちは」という挨拶がわりに「食事は済みましたか」と言う。

 良いことがあれば,人を招いて食事会を開く。歓びのお裾分けだ。もちろん主催者の奢りだ。

 何かで御世話になれば,謝意をこめて一席設ける。

 食事につきものは,例の中華料理の丸テーブル。賑やかに食べかつ飲み,話し,盛り上がる。このとき行われるのが,接待役の主人がうやうやしく賓客へ料理をとってあげることだ。これは欠かせない。しかし,最初の料理のときはまだしも,何皿か来るうちに,箸はすでに使用済みだ。その箸で主人が客に取り分けてあげる。薦める方からすれば「おいしい料理」であり,客人への「おもてなし」だが,薦められるほうからすれば,ウイルスのかたまりを食えと言われているようなものだ。私たちは既に,マイクロ飛沫だとか,唾液に潜むウイルスの危険性を知らされている。

 おかずをとってあげるという行為は,ふつうの家庭でも良く行われている。特にお母さんが子供や旦那に料理を自分の箸でとってあげるのはほほえましい食事の風景として欠かせない。

 家族なら許されても,他人との間ではこの習慣は廃れてゆくのではないか。“公筷(取り箸)があればまだしもだが,それではどうもよそよそしいという。

 それより,上司から薦められたらどうしよう。食べるべきか,食べざるべきか。悩むだろうなあ。

 それほど格式張った場でなくても,大皿の料理を四方八方から箸をのばしてつつき合う姿はよく見かける。

日本のように「お膳で定食」という方式が広まるのではないか。

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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