台湾と野球 ———あなたの中国語達人度(その1)
その国その国で人気のスポーツというのがある。日本なら野球と相撲だろうか。
それが言葉にも反映する。
たとえば「いやあ,最後にうっちゃられたよ」などという。他にも「勇み足」,とか「彼はふところが深い」などともいう。「とうとう首相も土俵を割ったか」,などなど,いずれも相撲が背景にある。
野球にまつわる言い方はもっと豊富だろう。「ピンチのとき彼が登板した」とか,「さっさと降板すればよいのに,いつまでもマウンドを降りない首相」などという。「今度のことは,いわば9回裏に逆転満塁ホームランを食ったようなものだ」。いずれも野球の場面とオーバーラップして具体的にイメージできる。
こういう言い方が中国人に通じるのかいささか疑問だ。中国ではさほど野球が行われていない。プロのチームがあるわけでもない。それにテレビでもほとんど野球中継をしていない。ルールも知らない人がほとんどだ。私は試しに中国人に向かってこういう比喩表現をふくんだ言い回しをしたことがある。案の定,きょとんとしていた。
この間台湾をおとずれた。
両替をして台湾の紙幣を受け取った。見ると,なんと野球の図柄ではないか。少年チームがグラブを高く放り投げ,勝利の喜びを表している。台湾では野球が盛んだ。
それでは台湾の国語には先ほどのような「野球表現」が入り込んでいるだろうか。これは是非調べてみたいと思っていたところ,人づてだがこんな言い方があるという。若者が使うようだが,「彼とどこまで恋愛が進展したかを聞く」場合だ。日本なら「どこまでいったの?」だが,それを
你和你的男朋友已经到了几垒了?
Nǐ hé nǐ de nán péngyou yǐjïng dàole jǐ lěi le?
というように「彼と何塁まで行った?」と聞くのだそうだ。手をつなぐ段階なら「一塁」,キスを許す仲になったなら「二塁」,ペッティングまで進んだら「三塁」まで。最後までいったら「ホームラン」(“全垒打”quánlěidǎ)と言うらしい。やはり野球がそれだけ親しみをもってとらえられている証拠だろう。
日本では今やサッカーやラグビーのほうが人気があるのかもしれない。しかし,こういうように比喩として使われるようになるには長い時間親しまれてこなくてはならない。歴史が必要なのだ。してみると,サッカーやラグビーはまだ日が浅いということだろう。