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日中いぶこみ百景

家の中を見せる

家を新築したり,引っ越してきたりしたとき,たまたま友達が尋ねてきた。そうでなくても,我が家への来訪は初めてというときがある。そんなとき,日本人と中国人の違いがでる。

 中国人は,家中みな案内してくまなく見せる。我々日本人も居間や書斎などを披露することがあるが,中国人は夫婦の寝室から,トイレ,お風呂場までくまなく見せる。

 家は城,中国人にとっても誇るべき生活の拠点だ。自分の生活の拠点を見てもらいたいのだろうが,それだけではない。

 わたしはあなたに私のすべてを知って欲しいのです,というところがあるように思える。

 中国人は友人を大切にする。友人には何でも話す。うれしいことなら“分享”(共に喜び合う)と言うし,哀しいことなら“分担”(一緒に背負う)と言う。プライバシーよりも,「あなたには隠し事なし」という面が強い。

 そういう彼らから見れば,日本人はどことなく「水くさい,他人行儀だ」ということになる。

 広い家に住んでいるのに,呼んでくれない。同じアパートやマンションに住んでいるのに,いつも玄関口での立ち話だ。

 プライバシーのことを“隐私”と言うが,こんな言葉が広く使われるようになったのは今世紀に入ってからではないか。もちろん外来の概念だ。

 もしも親しい友人が,お土産をもってきたり,遠慮深くお願いを切り出したりしたとき,彼らは“谁跟谁呀?”と言う。直訳すれば,私とあなたは「誰と誰ですか?」,私とあなたの仲じゃありませんか!どうしてそんな水くさいことをするんですか。もう本当に怒りますよ。

 差し出されたお土産やプレゼントなら,「持って帰ってくれ」という剣幕である。そういうやり取りが,2人の仲を一層親密にする。それがうれしいのである。

 

 

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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