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日中いぶこみ百景

贈り物

贈り物の話をしよう。

「御世話になったあの人に」贈るのが日本。

「御世話になるあの人」に贈るのが中国。

だから中国はどうしてもワイロ性を帯びる。御世話になる前に「ひとつよろしく」とやるわけだから。

 こういう贈り物は,日本におけるお土産とは違う。日本のお土産は「温泉饅頭」とか「パンダチョコ」でいい。どこかへ行ってきましたという証拠みたいなものだ。

 中国のそれは,あげる人のことを考え,ちゃんとしたものをあげる。お土産ではなく,プレゼント,贈り物だ。時計とかカメラとか子供服とか。それも高いものを贈る。

 中国の贈り物は相手を見て慎重に選ぶわけで,あまりに安いちゃちなものは相手をバカにしていることになるし,贈るほうも面子が立たない。だから時には値札がついたまま贈ることもある。ブランド物で,かつ値も張ることを敢えて見せる。贈り物は送り先で厳しく品定めされるのだから。

 

 最近は中国人来日観光客が多い。彼ら彼女らは,来日前に親しい友人や親戚に「日本に行くけど何か欲しいものある?」と希望を聞く。ここで「気を使わないで,何も要らないから,元気で帰ってきて」などといっては「遠慮深くて,みずくさい,友だちらしくない」と思われてしまう。ここは欲しいモノを言う方が喜ばれる。

 その結果,来日時には長い長い「贈り物リスト」持参でくる。中身は炊飯器だったり,カメラだったり,日本の化粧品や無洗米5キロだったりする。爆買いがおこる。

 

 お土産,手みやげ,贈り物,プレゼント。日本人だって,これらは気になる。

 だからこそ,日本は贈答を形式化した。お中元があり,お歳暮がある。贈るに時期がある。贈るモノも,金額の下限,上限がほぼ決まっている。

 中国は必要に応じて贈答する。さらに日本には半返しの習慣がある。すぐにプラマイゼロになろうとする。半返しされて中国人は驚く。どうしてこんな手の込んだ,面倒なことをするのかと。

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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