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Q.86「日常的に英語の語彙を増やす方法」

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Q.86「日常的に英語の語彙を増やす方法」

語学学習は語彙力が決めてと聞いて単語帳を買ったものの、長続きせず3日坊主で終わることが多く、家にはちょっとだけ使われた跡の残る単語集がたくさんある状況です。単語帳を見ると眠くなってしまいます。単語帳を使う以外で、できれば日常生活の中で、語彙力が増える方法とかはありませんか?ちなみに、TOEICの600点越えを目指しています(現在は450点前後)。

 

「多読と多聴で語彙習得を目指しましょう」

 日本人には単語帳を何度も見て単語を覚える学習者がとても多いと思います。実際に、日本人の英語力全般を国際的に見るとランキングがかなり低いのですが、この単語学習方法がその理由のひとつではないかと考えています。単語帳でとにかく多くの単語を覚えると英語力がつくと考えている方が多いような気がしますが、その方法では語彙力が身につかない学習者もかなり多いのは事実です。実際には、日常生活で英語に触れる機会のない日本人にとっては、単語帳を見て単語を覚えるという学習も、何もしないよりはマシなのかも知れませんが、学習した単語を理解し、使えるようになるためには、単語帳以外の学習方法の方が効果的だと考えています。

 では、具体的にどうすればいいのでしょうか。語彙力を身につけるということは、単に個々の単語の訳語を覚えるのではなく、実際に英文中で使用されている単語を目にする、耳にすることが重要になります

 例えば、acceptという単語を「~を受け入れる」と単語帳で覚えたとします。それでは、この単語を文中で使えるようにはなりません。ここでこの単語が使われている英文をいくつか紹介します。

 Doctors should not accept gifts from patients. 

(医者は患者から贈り物を受け取るべきでない)

 Tom has accepted all the follower requests.

 (トムはすべてのフォロワーリクエストを承諾した)

 Susan was accepted at Yale University.

(スーザンはイエール大学に入学した)

 この3文はすべてacceptという動詞を含みますが、いずれもすこし違う意味で使われています。このように文中で使われている単語を読む方が、「~を受け入れる」という訳語に囚われず、様々な文脈において、どのような単語と一緒にどのように使われているのかが学習でき、使い方の習得に繋がります。 これらの例のように実際に学習したい単語が使われている英文を目にするためには、多読が効果的です

 

多読によって実際に使われる生きた英語を学ぶ

 多読の最も良い点は、話の内容を楽しめるので継続しやすいところにあります。単語帳の場合、個々の単語を覚えること自体を楽しめる学習者にとっては、どんどん先に進むことができるのかもしれませんが、そのような学習者はむしろ少数派だと言えます。物語でもノンフィクションでもいいのですが、書いてある内容そのものを楽しめる方が、次に何が書いてあるのかが気になるので、継続学習に繋がります。さらに、多読は、正しいレベルの教材を選べば、難易度の高すぎる教材を使用しないので、辞書を頻繁に使用する必要もありません。知らない単語が登場しても、文脈から意味を推測できることがほとんどです。

 そして、このように文脈から意味を推測できた単語は、丸暗記で覚えた単語とは違い、生きた英文の中で使われている語句をそのまま習得できます。それが本来行うべき語彙習得です。このように習得した語彙の中には、うまく和訳できないものがあります。しかし、日本語訳に頼らず、英語の単語を英文の中で意味を理解し習得した単語なので、日本人が日本語の単語を覚えるのと同じ方法で習得したことになります。必然的に、どのように文中で使われるかを同時に習得しているため、実際に会話や作文の中で使用できるようになります。

 この多読に適している教材としてよく使用されるのが、Graded Readersです。Graded Readersはその名の通り、単語の難易度レベルがコントロールされた読み物です。例えば、有名なシェイクスピアのロミオとジュリエットのような名作から、著名人の伝記、科学的事象の説明など、話題や内容も多岐に渡っているので、ご自分の興味のある内容の本も見つかるはずです。また、個々の本は比較的短く、それほど負担なく読み終えることができるので、達成感もあります。単語レベルが下げられているとはいえ、英語だけで書かれた本を読み終えるという特別な達成感は、次の一冊へのモチベーションにもなります。それほど値段も高くありませんし、最近ではオンラインで無料で利用できるものもあります。

 Graded Readersの中には、CDや音声つきのものが多くあります。実はこの音声が語彙学習効果を高めてくれます。内容理解を主な目的として読んだり聞いたりしながら、無意識のうちに習得する語彙に関する最近の研究では、実は読むより聞くほうが効果が高いということが分かっています。つまり、内容理解さえできれば、音声を聞いているだけで、そこに使われている知らない単語を習得していくということです

 多読、多聴においては、学習効果を期待するには、正しいレベルの選択が重要です。知らない単語がほんの数個含まれているだけの、比較的簡単に聞き取って意味の理解できる教材を選ぶことが重要です。そして、多読、多聴を繰り返していくと、母国語の語彙習得と同様の方法で語彙を習得していけます。内容を楽しんで、継続できて、語彙習得ができる多読、多聴を是非試してみてください。

 

 

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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 特任准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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