Q140.「子どもの早期学習は、いつから始めるのが良い?」
少し前に姉に子供が生まれ、英語の学び始める時期について質問を受けたので、今回投稿させていただきました。
姉自身は特に英語が得意なわけではありません。ですが、甥にはバイリンガルになって欲しいそうです。私自身は英語の勉強は好きで、中学生のころから力を入れて学んできて、今では英語のWEBページを読んだり、簡単な会話くらいなら無理なくこなすことができます。姉が甥にどこまで英語を習熟させたいのかはわからないのですが、個人的にはあまり早くから学習を始めなくても良いのかなと思っています。
ただ、英語学習は幼少期から始めたほうが良いとも聞きます。そこで、早く始めることにどんなメリットがあるのか、またデメリットもあればお教えいただきたいです。それと、英語を学び始めるのに、適した年齢というものがあるなら、目安でもよいので教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。(ゆういち、33歳、会社員)
目指すバイリンガル像によって、開始時期を決めましょう!
お姉さんにお子様が生まれたとのことおめでとうございます。子育ては大変なことが多いですが、近頃では子供の将来のために英語教育について考える親も少なくありません。お子さんにバイリンガルになってほしいということなので、まず、大半の方がイメージするバイリンガルと実際英語を使用して活躍しているバイリンガルの違いについて簡単に説明した後、英語の早期学習のメリットとデメリットについていくつか考えられることを紹介して、英語学習を始める時期について私の考えを述べさせていただきます。
まず、バイリンガルという言葉の持つイメージですが、おそらく大半の方が思い描くのは、たとえば、歌手の宇多田ヒカルさんように、海外で幼少期を過ごしたり、インターナショナルスクールで教育を受けたり、あまり一般的ではない環境で育った人だと思います。ネイティブのような発音で、英語をペラペラ話している姿を想像するのではないでしょうか。
一方、実際のグローバル社会で活躍するバイリンガルの中には、たとえば、トヨタ自動車の豊田章男氏のように、留学経験はあっても、幼少期に海外で生活した帰国子女でもインターナショナルスクール出身者でもない方も多くいらっしゃいます。彼らの英語は決してネイティブのような発音ではありません。しかし、日本で英語教育を受け、英語コミュニケーション力を習得して国際的に活躍しています。私自身も、大学院留学で5年間ほどアメリカに住んでいましたが、中学校から大学まで、日本の英語教育を受けたバイリンガルのひとりです。
お子さんの早期英語学習に関する決断をする上で、このイメージの違いは重要なカギとなってきます。そして、お子さんがまだ幼いうちは、お子さん本人の意志や目標を知ることは難しいと思います。しかし、英語学習は、英語を習得する環境の影響があまりにも大きいので、どのような英語力の習得を目標とするのか、しっかりイメージすることが重要です。ここでは、英語圏に移住しなくても、日本国内でも実現可能な環境で英語学習を行うことを念頭に、英語学習を早期に始めることのメリットとデメリットをいくつか説明させていただきます。
大きなメリット、それは発音の習得!
英語早期学習の大きなメリットとしてまず考えらえるのは発音習得です。この理屈を理解するために、日本人がどのように日本語を習得していくのかを簡単に説明させてください。
人間は何も障がいがない状態で生まれた場合、どの言語の発音も習得できる能力を持っています。したがって、日本語話者の両親を持つお子さんも、英語だけでなくあらゆる言語をネイティブのような発音で話すことができる可能性を持っています。しかしながら、日本で育つ場合、日常的に日本語に囲まれているのが当然ですから、毎日周りの人が話しかける日本語の影響を受けます。家族や友人が毎日何時間も話しかけますから、生まれたときはゼロだった日本語に関する情報が、毎日少しずつ増えていきます。教育を受けない限り読み書きはできません。そのため、この日本語に関する情報はすべて発音を通して伝わります。聞こえてくる日本語語彙の発音情報を、その場面で見たり聞いたり味わったり触れたりすることで、徐々にその語彙の発音情報と概念が結びついていきます。その結びつきがしっかりできたときにはじめて、その語彙を話す準備ができます。読み書きの教育を受け始めるまでの日本語の情報はほとんど発音によるものなのです。
しかし、膨大な量の日本語の情報を処理しなければならないので、日本語にない発音を聞き取る能力を失っていきます。たとえば、英語の/l/や/r/は日本語にはありませんから、日常的に日本語のみでコミュニケーションを取る環境で育つと、/l/と/r/を区別する必要がなく、どちらも日本語のラ行の音に聞こえてくるようになります。帰国子女などのバイリンガルの場合、日常的に日本語と英語の両言語の発音でコミュニケーションを取る環境にいます。そのため、両言語の発音を聞き取る能力を失わずに済みます。早期学習によって、英語でコミュニケーションを取る環境にあると、日本語以外の発音を聞き取る能力を失う前に、英語の発音を聞き取る能力を身につけることができます。そして、その聞き取り能力により、英語の発音を真似ることができるので、ネイティブのような発音を習得することができます。
大人になってからでも発音学習はできます。しかし、学習アプローチは全く異なります。個々の発音方法を明示的に理解した上で、聞き取り練習や発音練習を繰り返し行うことで、時間をかけて発音は少しずつ良くなります。通じる発音を身につけることは可能ですが、幼い子どものように聞いて真似るだけでネイティブのような発音を身につけることは非常に難しくなります。
早期学習で、将来の英語学習へのベースに!
もうひとつの大きなメリットは将来、英語学習が学校ではじまったときに有利になることです。早期学習で成功した学習者のほとんどは英語学習が楽しいと感じています。それによって継続が可能になることが成功の条件だと思いますが、そのおかげで、学校で英語学習が始まってもあまり躓かずに済みます。学校ではじめて英語に触れる学習者は、日本語と英語の違いに戸惑います。アルファベットが並んでいるだけの表記にも、日本語のようなしっかりした規則性もない読み方にも、動詞が主語の配置していることにも、とにかく驚きや違和感を経験し、言語なのに理解できないことにストレスを感じてしまいます。すでに日本語によるコミュニケーションが十分できるようになっているので、日常生活において英語使用の必要性がありません。そのため、理解のできない英語を学ぶ目的が、成績や受験のためになってしまいます。成績や受験のためには、かなりの量の英語に関する知識を学習しなければなりませんが、早期学習を続けてきたお子さんは、最初のスタート時点で優位に立つことができます。もちろん、早期学習をしてきたお子さんにとっても、成績や受験のための英語学習は決して楽ではありませんが、基盤があるのとないのとでは、乗り越えなければならない言語間の壁の高さも厚みも異なります。
コスト面は要検討!
さて、早期学習にはもちろんデメリットもあります。先に述べたような早期学習には、コストがかかります。発音を主な目的として早期学習を始めるのであれば、毎日のようにお子さんに英語で話しかける人物がいるなどの環境が必要です。家族に英語を話せる人物がいれば、それほど難しいことではありませんが、そうでない場合には、なかなか難しいでしょう。そうすると、頻繁に英会話教室に通わせたり、あるいは英語で様々な活動をしてくれるプリスクールに通わせたり、かなりの教育費がかかってしまいます。よく勘違いされる方が多いのが、ビデオ教材や音声教材の使用の効果です。基本的には、ビデオや音声教材の中で話されている英語は、それを見ている子どもと直接やり取りを行わないので、同様の効果が期待できません。
一つの例として挙げられるのは、聴覚障がいを持った両親の間に生まれた正常な聴覚を持った子どもに、手話は必要ないだろうと、手話で話しかけて育てることはせず、代わりに毎日何時間もビデオを見せて育てた結果、その子は数年間ひとつも言語を持たなかったという報告があります。英語を学習しようという本人の意志がない限りは、直接やり取りをする必要のない言語の発音情報はただの雑音ですから、幼い子どもに英語のビデオを何時間も見せるだけというのは、有効な学習方法とは言えません。したがって、早期学習でネイティブのような発音を身につけることを目標にするのであれば、かなりの費用がかかることがデメリットになります。
英語学習に興味がないと逆効果になることも…
さらに、幼い子どもは、英語学習そのものに興味があるとは限らないことがデメリットとなることもあります。先にも述べましたが、日本語でのコミュニケーションができるようになってくると、英語でのコミュニケーションの必要性がなくなります。たとえば英語学習のために英語のアニメを観ているとします。最初は映像や効果音などのお陰で興味を持って観ることもできると思いますが、そこで話されている内容が理解できないことが、ストレスになっていきます。幼ければ幼いほど、内容が理解できない映像を観ることに抵抗がないと思いますが、成長とともに、理解できないことに耐えられなくなります。早期学習をさせている親の中には、結果が出るまで英語学習を継続してほしいと願っている方も少なくありませんから、長期に渡ってお子さんが英語学習によるストレスを感じ続けることになりかねません。
早期学習の主なメリットとデメリットを紹介しましたが、早期学習そのものに正解も不正解もありません。それぞれの家庭の都合によってお子さんがどのようなバイリンガルを目指すべきか考えるべきです。個人的な意見ではありますが、早期学習の最大のメリットである発音習得を重視したくて、経済的に余裕があるのであれば、2~3歳から、たとえば、幼児英会話に頻繁に通わせたり、プリスクールやインターナショナルスクールなど、英語でコミュニケーションを取る環境に通わせてあげるのはいいと思います。そこで出会う友だちとも英語でやり取りするようになり、とても発音習得にとてもいい環境です。一方、ネイティブのような発音でなくてもいいのであれば、小学校の英語の授業がはじまる数か月前くらいから、少しずつ慣れ親しむために、安価な児童英会話にいくのでも十分だと思います。中には、毎日10分程度の英会話レッスンを安価で配信している先生もいらっしゃいますから、試してみるのもいいと思います。それだけでも、本人の努力次第では国際社会で活躍するバイリンガルにはなれますから、あまり心配しないで、お子さん本人が楽しく継続学習できる環境を整えてあげてください。
★編集部より★
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