朝日出版社ウェブマガジン

MENU

教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.143「CLILで対策!IELTS!」

先日TOEICで900点を超えました。今後は将来的に英語を使う仕事への転職や将来的に留学の可能性も踏まえ、IELTSのアカデミックモジュールを受けようと考えています。まだ実際に受けたことはないのですが、2か月後に受ける予定でおり、すでに申し込みをしています。TOEICですとマーク式ということもあり、問題集をしつこく繰り返していると、自然とスコアは上がっていったように思います。ですが、IELTSの場合は試験内容にライティングとスピーキングもあり、同じようなひたすら解く形で練習を重ねることはできないと感じています。こうした発信型のタスクは、書いたり話したりした内容を添削してもらう必要があると思うのですが、やはり、添削サービスのようなものを利用したほうが良いでしょうか。費用的にあまり頻繁に利用できないと思うので、自分でもできる方法があれば教えていただきたいです。

又、アカデミックな場面で使われる英語に慣れるために、日常的に触れたいと思うのですが、問題集や参考書を読む以外に、おすすめのサイトや学習法があればお教えいただけますと幸いです。(田上、31歳、会社員)


 

IELTS対策として、CLILで内容も英語も学習しよう!

まずはTOEIC900点突破おめでとうございます。これまで相当な努力をされてきたのだとお察しします。その実績があれば、次の目標達成も間違いないでしょう。今度はIELTSのアカデミックモジュールを受験されるということで、有料の添削サービスなどを利用しなくてもできる、スピーキングとライティングの練習方法、および、アカデミックな場面で使用される英語に慣れるための、特にContent and Language Integrated Learning (CLIL:内容言語統合型学習)を取り入れた学習方法をご紹介させていただきます。

 

ライティングは、570語を使う練習を!

まず、ライティングについて説明します。すでに対策を開始されていると思いますので、出題傾向についてはご存じだと思いますが、念のために簡単に説明したいと思います。

IELTSのライティングは60分間で2つのライティング課題を書くことになります。1つ目は、図表など示される視覚的な情報を見て、そこから読み取れる情報の要約と主な特徴について説明する文章になります。こちらは150語以上という長さの目安があります。2つ目は、いわゆるエッセイ問題です。一般的な時事問題に関するある側面について議論する問題が多いようですが、ここでは、自身の意見を述べ、その裏付けとなる根拠を整理しながら、英文エッセイの書き方に従って表現する能力が必要とされます。こちらは250語以上書くことになっています。いずれの課題も、文法や語彙を正確に使って英文を書くというはもちろん重要なのですが、書く内容そのものや内容の構成も重要になってきます。

どちらの課題にも共通して対策が必要なのが語彙だと考えられます。採点者が提出された課題を読む際に、使用されている語彙によってその文章がどれくらいアカデミックな文章として相応しいかどうか判断することはよくありますから、アカデミックな語彙を使用することをおすすめします。ここでご紹介したいのが、作文課題の分野や内容に問わず、アカデミックな文章を理解したり書いたりする際に便利なAcademic Vocabulary Listというものです。これはオンラインで検索すれば簡単に手に入れることができます。このリストの単語は、570語しかありませんので、できるだけ早い段階で、これらの語彙を作文で使用できるように練習しておくのが良いでしょう。読んで理解できることと、実際に使うのではかなり違います。そのため、あくまでも実際に使用することを念頭に練習をしてください。最初は短文レベルでの練習でも構いません。繰り返し単語を使う練習をすれば、後に長い文章を書く際にも使えるようになります。

 

模範解答を踏まえて、自分の英文を客観的に評価を!

次に、練習問題などに取り組む際に注意すべき点について説明します。市販の問題集にも、Bandスコア別の模範解答が掲載されていると思いますし、オンラインでも数多くの模範解答が見つけることができます。そうした模範解答を参考にして、まずはどのような作文を書けばいいのかを理解するためにも、解答の英文を十分にチェックしましょう。自分が書きたいと思う文章の構造を分析できるようにして、それから練習問題に取り組むと学習効果も高くなります。

また、実際に練習問題に取り組んだ際に、ご自身の書いた作文を自己評価することも非常に重要な学習となります。IELTSの作文課題の評価基準はBand Descriptorsという形で公開されています。目標スコアとするBandスコアの詳細をしっかり読み、ご自身の作文がどの項目を満たしていて、どれを満たしていないかを判断する力を身につけてください。すると、これからの学習に非常に役立つと思います。

綴りの間違いなどには、比較的簡単に気づけると思いますが、Coherence & Cohesion(首尾一貫性と結束性)などは、書いてから数日空けて読み返すのが良いでしょう。後になって見返すことで客観性が増し、自分の書いた英文がすんなり読み進められるか、論理的に議論がなされているか、説得力があるかなど、読み手の立場になって自己評価できるようになります。

また、文法や語彙の用法についても、数日空けて読み返すと、誤りを発見したり、アカデミックな語彙に置き換えることができることに気付いたりします。いずれにしても、評価基準をしっかり把握し、ご自身の書いた作文を自己評価することそのものが重要な学習となります。

 

生成系AIを使った作文評価も有効!

とはいえ、自己評価だけに頼るのも不安に感じるのではないでしょうか。そんな時は生成系AIを使って確認するのも一つの方法です。生成系AIであれば、多くの場合、無料で作文評価が可能です。特に言語については、修正箇所の提案などもしてくれるので、是非活用してみてください。

活用のためには生成系AIに、プロンプト(指示文)を書く必要があります。例として、以下のプロンプトを確認してみてください。

“I am practicing for the IELTS Writing Task 1. Please use the IELTS Writing Task 1 band score descriptors to evaluate my writing and provide a band score. Additionally, please identify areas for improvement in both content and language.”

(IELTSのWriting Task 1の練習をしています。IELTS Writing Task 1の評価基準の記述項目を使用して私の作文を評価してバンドスコアをください。また、内容と言語においてより良くするためにはどこを直せばいいのか教えてください)

 

 プロンプトは、どこまでコメントが欲しいかによりますが、このように評価と修正箇所の提案を聞き出せれば学習には十分でしょう。内容に関してはある程度は信頼できますが、ネイティブではない人が書いた英文をどこまで理解して、評価できるのかは未知数です。けれども、文法や語彙の添削に関してはそれほど問題なく添削してくれるはずです。ご自身が書いた英文が正しく解釈された場合には、正しい提案や添削をしてくれます。ただし、そもそもの解釈が間違っていた場合には、間違った解釈を基にした英文が提案されてしまいます。なので、ご自身が言いたかったことが表現されているかどうかを、必ずチェックしてください。有料の添削サービスほどのクオリティは期待できませんが、無制限に利用できますし、学習に役立つことは確かです。

 

スピーキングにもAI添削を!

実はスピーキングも同じような仕組みで生成系AIを使用した添削ができます。現在ではすでに、スマートフォンの音声認識機能によって生成系AIとやり取りできるサービスもあるようです。もちろん人間とのやり取りと同様にという訳にはいかないとは思いますが、どんな質問を何度しようと生成系AIは嫌気がさすことがありません。とことん質問できる点は大きな利点ですし、ご自身の体力さえ持てば、生成系AIがとことん練習に付き合ってくれるのは、最大の利点と言えるでしょう。

たとえば、

“I am practicing for the IELTS Speaking Test. Please act as an IELTS examiner, use the IELTS Speaking Test band descriptors to evaluate my speaking and provide a band score. Finally, after the practice, please identify areas for improvement in both content and language.”

(IELTSスピーキングテストの練習をしています。IELTS試験官として、IELTSスピーキング評価表を使用して、私のスピーキングを評価してバンドスコアをください。最後に練習の後、内容や言語について直すべき箇所を教えてください)

というような指示を生成系AIに出すといいでしょう。機械が発音を検知するのでそれほど正確に解釈されないこともありますが、発音に関して言えば、IELTSでは通じるかどうかが重要です。文脈や表情を頼りに理解する試験官より、表情や身振り手振りの情報なしに解釈する機械の方が、発音評価は厳しくなるといえるので、とてもいい練習になります。

 

オンライン上の英文や音声の活用も!

そして、リーディングとリスニングの練習も必要です。アカデミックな内容にこだわる必要はありませんが、それなりの内容を確実に理解できるようになる必要があります。

まずはリーディングについてですが、オンライン上には様々な文章が溢れています。基本的にはどんなものを読んでも読む練習にはなると思いますが、アカデミックな内容であれば、入門的なものを読むことが望ましいでしょう。IELTSは言語のテストです。そのため、実際には専門的な知識がないと理解できないような文章は出題されません。専門用語などが登場しても、文章中にその説明や定義が登場しますし、文脈から理解することが可能な文章しか出題されません。最近ではFree TextbooksやOpen Textbooksなどと検索すると大学レベルのテキストが無料でダウンロードが可能です。実際にある大学で使用されているテキストもあるので、内容は本格的かもしれませんが、とてもいい練習になると思います。

ただ、文量はIELTSの試験で読む文章より当然長くなるので、興味のある分野の専門書で、入門レベルのものを趣味感覚で挑戦してみましょう。IELTSの試験対策として読むのであれば、新聞記事で十分です。The Guardianなどは無料で読めますし、トピックも多岐に渡ってカバーされていて、言語レベルもちょうどいいと思います。

リスニングの練習ですが、たとえば、British Councilが、レベル別の教材を無料で提供しています。練習問題等もついていますので内容理解を確認するのに便利です。TOEIC L&Rテストで900点をお持ちとのことなので、現在のレベルならC1レベルの教材で練習するといいでしょう。また、アカデミックな内容で何かを練習したいのであれば、TED Educationなども大変役立ちます。それほど難しくない内容のものから、かなり高度な内容のものまでありますが、ご自身の興味のあるトピックのものから聞いていくととてもいい学習になると思います。アカデミックとはいっても、高校生レベルのものも含まれていますし、すでに知っている内容も含まれているはずなので、内容理解がしやすくおすすめです。TED Educationは、British Councilの教材とは違い、イギリス英語だけではありません。実際の試験のように様々な英語に触れるという意味では、とてもいい練習になるはずです。また、YouTubeでも、例えばIntroduction to Sociology(社会学入門)などのように、何かの学問のIntroductionをキーワードとして検索すると、その分野の入門的な内容のレクチャーを聞くことができます。英語の学習というよりは、興味のある分野の入門レクチャーを聞いて、内容を楽しむ感覚で聞くと、リスニングの練習としては大変高い効果が望めるでしょう。

このように、オンライン上で、無料で利用できるサービスが数えきれないほどあります。IELTSの試験対策のためというより、すでに高いレベルの英語力を身につけていらっしゃるので、英語を使って英語をさらに学び、実際に内容についても同時に学ぶこのCLILが、非常に有効な学習方法になるでしょう。

 

英語は言語です。実際に何かを理解するため、学ぶため、伝えるために使用するということを通して、総合的にレベルアップできることは、すでに研究でも明らかにされています。試験対策にこだわらず、英語を使って何か新しいことを学ぶのは、帰国子女たちが英語力を身につけてきた方法に似ていますし、学習者として、私自身も経験してきたおすすめの学習方法です。ぜひお試しください。

 


★編集部より★

英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!

英語お悩み相談室 質問受付フォーム 

バックナンバー

著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる