朝日出版社ウェブマガジン

MENU

教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.114「非母語話者の英語を聞き取るには…?」

最近転職をして、外資系企業に勤めており、仕事柄、世界中のオフィスと会議をすることがあります。会議では、参加者は共通言語として英語を使っているのですが、やはり母国語に引きずられるのか、国毎に発音がすこし異なり、聞き取りに苦労しています。特にインドやシンガポールのチームとやりとりすることが多いのですが、現地の発音の慣れ方のコツや勉強方法などがあれば、お教えいただきたいです。(timoko、33歳、会社員)


 

それぞれの訛りについて学んで慣れましょう

ご経験されている通り、仕事上で英語を使用する相手は、ネイティブスピーカーが相手ではないことも少なくないのが事実です。さらに発音というのは、語彙や文法に比べるとそれぞれの母国語の影響を受けやすいので、母国語が違えば、英語の発音も異なってきます。それぞれの言語の特徴を持ったアクセント(訛り)のある英語を聞き取って理解するというのは、簡単なことではありません。

実は発音教育や共通語としての英語といった研究分野には、英語で会話をした際、話し手が話す内容を、聞き手がどの程度理解できているのかをテーマにした研究があります。英語を母語として話す母語話者と、そうではない非母語話者の会話を、

母語話者同士(たとえばオーストラリア人同士)、

母語話者と非母語話者(たとえばカナダ人と韓国人)、

共通の母語を持つ非母語話者同士(たとえば中国人同士)、

共通の母語を持たない非母語話者同士(たとえば韓国人と中国人)

の4パターンの組み合わせで、それぞれの理解度について調べた結果、共通の母語を持たない非母語話者同士のコミュニケーションが最も難しいことが分かりました。普段から英語を使用して生活したり仕事したりしている人の数をみると、圧倒的に非母語話者が多いのが英語の特徴であることを考えると、実践的な英語でのやり取りを円滑にすることを目標とするには、非母語話者の話す英語を理解することが重要だということが分かります。

しかも、いわゆる母語話者の話す英語のみを使用して英語学習を進めても、自動的に非母語話者の話す英語が理解できるようになる、というわけではありません。なので、多かれ少なかれ非母語話者の話す英語を聞く練習が必要だと言えます。

 

動画を通して訛りに慣れよう!

さて、その練習方法として二つの方法を紹介させてください。

まずは、それぞれの言語によって訛りのある英語に慣れることを目標にした練習です。仕事上で英語を使用していることを踏まえると、相手の方の英語レベルも高いと思います。なので、語彙や文法に問題があるというよりも、発音の違いに焦点を合わせた練習がいいと思います。

現在では非常に多くの音声や動画が手に入るので、ご自身の目標に合わせて音声を探すことができます。たとえば、YouTubeで【pronunciation Indian English】などをキーワードに検索してみるとたくさんの動画がヒットし、インド人の話す生の英語を聞くことができます。YouTubeにはキャプション機能が実装されていますが、そうした字幕を利用するのではなく、もともと英語字幕がついている動画を探してみてください。はじめから字幕ありの動画を用いて聞く練習をすると、インド人訛りのある英語に少しずつ慣れていきます。また、多くの諸外国の方が話す英語が収録された書籍もあります。たとえば、世界経済フォーラムの年次総会(通称ダボス会議)で、世界の政財界のリーダー的存在の方が話す英語を収録した書籍も販売されており、網羅的に多様な発音に触れることができるので、こうした書籍を利用するのも良い方法でしょう。

 

訛りの特徴を知識として抑える!

もう一方の方法は、それぞれの訛りのある英語の特徴の体系的な学習です。

私が最近行った大学生を対象にした研究では、訛りのある英語を聞き取れるようになるための方法として、それぞれの訛りの特徴を調べて知識として学ぶことが有効だと分かりました。この研究では、たとえば、中国人の話す英語の特徴を、それぞれの学生が調べてきて、それをクラス全体でまとめるという活動をしました。

たとえば、【子音/k/で終わる単語の最後に母音/ə/を付け加えるので、take/teɪk/が/teɪkə/に聞こえてくる】、【子音/v/は/w/と発音されることが多いので、have /hæv/が/hæw/に聞こえたりする】といった知識を学習しました。ここでは、実際に中国人の話す英語を聞き取る練習はしませんでしたが、この授業前と授業後を比較すると、授業後の方が中国人の話す英語が上手く聞こえるようになったことがわかりました。こうした知識を踏まえて、実際に中国語訛りの英語を聞き取りの練習を加えることで、更なる効果が期待できるはずです。

 

スピードが速い場合は、ゆっくり話してもらうようにお願いを!

そして、ご指摘のあったシンガポール英語とインド英語が聞き取れない理由は、もうひとつ考えられます。それはスピードです。シンガポール人もインド人も日常的に英語を使用している人が多く、英語で教育を受けている方も多いので、話すスピードが速い傾向にあると思います。聞き慣れない訛りのある英語を聞き取るには、聞き慣れた英語を聞き取る場合と比較すると、意味として処理するのに時間がかかるため、上手く聞き取れない箇所で聞き取りが滞ってしまいます。

この話すスピードが聞き取りにくい原因である場合、おそらく会議に参加する他の方々も同様に聞き取りが難しいと感じているはずなので、少しゆっくり話すようにお願いするのも一つの方法だと思います。

もちろん、訛りがあることを理由にゆっくり話してもらうようお願いするのは避けたいと思うので、オンライン会議でしたら、音声の調子がよくないことを理由にゆっくり話してもらうようにするなど、工夫をしてみるのはいかがでしょうか。

 

訛りのある英語は聞き取り練習をすれば慣れていくものですが、体系的に訛りの特徴を学んだり、ゆっくり話すことを促したりするのも有効的な方法です。これで、少しでも仕事を円滑に進められるようになることを願っています。

 


●編集部より:英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!
英語お悩み相談室 質問受付フォーム  

バックナンバー

著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 特任准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる