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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.118「TESOLの取得、留学先はどのように選ぶのが良いでしょう?」

英語学習の相談ではないのですが、留学について相談したくてご連絡しました。私は今、27歳なのですが、TESOLを取りに留学に行こうと考えています。今は、会社員をしているのですが、転職して中高の英語の先生になりたいと考えています。大学時代は、英語を専攻していて出来ないほうではないのですが、海外での経験がないので、留学を経験しておきたいこともあり、それなら語学留学ではなく、学位を取ったほうが良いかなと思っています。

今はイギリスにするか、アメリカにするかで悩んでいます。横本先生は、アメリカの大学院とイギリスの大学院で学ばれていますが、国によって学習の進め方に違いはあるのでしょうか。なるべく費用は抑えつつも、充実した学びを得るなら、どちらがよいでしょうか。


 

まずは目標にあったプログラム探しから

TESOL専攻を希望されているとのこととても嬉しいです。個人的には、留学によって日本語から英語に訳すようなことが極端に減りましたし、自分が使う英語表現が英語らしくなったのを実感しました。大学院留学はとても大変でしたが、やはりその経験はお金では買えない貴重なものとなったので、チャンスがあるようでしたらぜひチャレンジしてほしいです。

 

まずは学費の情報収集を

ご存じの通り私はアメリカの大学院とイギリスの大学院で学びました。私の場合には、留学をするタイミング、予算、自分の目的にあったプログラムということで選択肢がかなり限られていました。費用を抑えるためにどうしても気になるのが学費です。大学院生がティーチングアシスタントをすることで学費が免除になったり、報酬が貰えるようなプログラムもありますが、実際にティーチングアシスタントになれるかどうかは運任せになってしまうこともあるので、それをあまり期待しないで大学院選びをすることを強くお勧めします。

学費に関する情報はどの大学でも公開しているので、各大学院のTESOLプログラムのページから、学費に関する情報をしっかりチェックしてください。アメリカなら大体2年、イギリスなら大体1年でTESOL修士課程は修了できると思いますが、プログラムによると思いますので、それも併せて確認してください。

そして、学費は今提示されている金額より高くなることはあっても、安くなることはほぼないと考えていいと思います。少し上乗せして準備しておくといいでしょう。

 

プログラムの違いを把握し、自分に合う課程を見つけよう!

次にプログラムの内容です。アメリカもイギリスも修士課程のTESOLでは、研究手法を主に学習し、論文の書き方を中心に学ぶプログラムと、実際に教える経験をしながら教育法を主に学習するプログラムがあります。それは大学によって様々なので、どちらを中心としたプログラムなのか必ず確認しておくことが重要です。

私が修士を修了したカリフォルニア州立大学サクラメント校では、当時、たとえば、発音の教え方のクラス、ライティングの教え方のクラスなど、実際に受講している講座の課題を通して様々な研究論文を読みながら、研究で実証されている有効な教育法を学びました。

さらに、それぞれの講座の課題として、実際に英語学習者を教えて、自分のティーチングと学習者の変化などを次のティーチングに反映させなければならないというプログラムでした。教える経験がほとんどなかった私にとっては、教える経験を積む大変貴重な経験でしたし、教えることに対する自信につながりました。

将来教えることを目標にしている学生にとっては、とてもいいプログラムでしたが、将来研究者になることを考えている学生にとっては、少し物足りないと感じるかもしれません。時間も費用も掛かりますので、プログラムの内容を中心に考えるのが最も重要だと考えています。

 

生活費にも見積もりを!

そして生活費も重要なポイントです。家賃、光熱費、食費、交通費、通信費諸々の生活費は都市によって全く違います。私が修士課程を始めた当時、サクラメント市の2ベッドルーム(2LDK)の家賃は4週間で300~400ドル程度でしたから、ルームメイトとアパートをシェアすれば150~200ドルで暮らせるほど物価が安価でした。食費やガソリン代を含めても月に500ドルほどで生活できたので、今のアメリカの物価からは全く想像できません。探せばどこかにそれなりに安い都市があるかもしれませんが、日本とアメリカの物価の違いや賃金の違いを考えると、アメリカ留学はかなりの高額になると思います。アメリカのTESOLプログラムは2年間で修了することが多いので、生活費も考慮に入れると、やはり1年間で修了することの多いイギリスの大学院の方が生活費はかからずに済むといえるでしょう。

 

費用に不安のある場合は、オンラインプログラムも視野に

最後にご希望ではないかもしれませんが、念のためにご紹介させていただきたいのがオンラインプログラムです。

従来は、オンラインでプログラムを運営するノウハウを持つごく一部の大学のみが、オンラインでTESOL修士課程を開設していたのですが、近年では、新型コロナの影響により多くの大学で、オンライン受講できるプログラムを提供しています。オンライン受講の最大の利点は、日本で仕事をしながら受講できることです。留学となると、学生ビザで渡航するので、就労するには別の許可が必要ですし、就労時間にも制限がありますから、たとえティーチングアシスタントとして働かせてもらったとしても、収入としては生活費の足しレベルにしかなりません。それを考えると、日本で仕事しながら受講できるのは費用に不安のある学生に向いています。

私は、日本での仕事を続けながらイギリスのブリストル大学でTESOL/Applied Linguisticsの博士課程を始め、修了しました。この課程は、オンラインプログラムではなかったので、実際にブリストル大学と香港の香港中文大学に計7回ほど集中講座を受講しに行かなければなりませんでした。大学で教えながらだったので、授業のない2~3月や8~9月に開講されている講座を受講することができましたが、会社にお勤めの場合にはあまり現実的ではありません。その点、オンラインですと、実際に受講しに海外に行く必要もないですし、実際にオンラインの博士課程を修了したあるいは現在在籍している同僚も数名います。

一概にイギリスの方がいいとか、アメリカの方がいいということは言えませんが、修士を修了した後にご自身が何をしているのかを想像して、それにあったプログラムを見つけることが最も重要だと思います。次に費用に関してはオンラインが一番不安なくできると思いますが、修了までにかかる総費用を考えると、1年で修了するプログラムをお探しになるといいと思います。

ご参考になれば嬉しいです。

 


●編集部より:英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!
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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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