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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.45「ちいさい子供に日本語と英語を同時に教えても大丈夫?」、Q.46「どうして日本語とおなじように英語を覚えられないの?」

この連載では、英語学習に悩みを抱える読者の方のご質問に、横本先生が懇切丁寧にお答えしていきます。先生へのご質問はこちらから。お気軽にご応募ください。
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Q.45「ちいさい子供に日本語と英語を同時に教えても大丈夫?」

 昨年はじめての子供を出産しました。ネットやテレビを見ていると、これからの時代は英語を話せなくてはいけないと思っていて、子供が幼稚園くらいになったら子供のための英語教室に通わせようかと考えています。でも、日本語と英語を混じって覚えたら、ルー大柴さんみたいな話し方になるのではないかと心配です。やっぱり、まずは日本語をちゃんと覚えてから英語を勉強させるべきなのでしょうか?宜しくお願いします。(みなえ、28歳、主婦)

 

長所と短所を知った上で、お子さんにとってベストな選択をしましょう!

 自分の子の将来に対する期待や不安は絶えません。親として子の将来のためにできることをしてあげたい一方、専門的な知識のない意見が多く広まっているので、どの情報を信頼していいのかわからず、混乱してしまいます。しかし、幼少期に英語学習を始めたからと言って、日本語と英語を混同して、「英語混じりの日本語」を話したり「日本語混じりの英語」を話したりする大人になることはありません。

 ただ、どの時期に英語学習を始めるのかというのは、幼児英語教育の長所と短所を理解した上で判断すべきだと思います。

 まず、幼児英語学習の最大の長所として挙げられるのは発音です。強弱、長短、そしてそれらからなるリズム、子音、母音など、説明しきれないような英語発音の特徴を耳で捉えて、耳に頼って発音学習ができるのは幼少期です。日本語が話せるようになってからですと、日本語の発音に当てはめて英語の発音を聞き取ってしまうので、耳に頼る発音学習では不十分になってきます。また、幼少期に外国語学習をすることは、後に脳の発達に好影響をもたらすといわれています。集中力アップや気持ちの切り替えがうまくできるようになるとも言われています。

 一方、短所は言語発達の遅延です。日本語のみを話す人と比較した場合、日本語の発達が多少遅延することがあるようです。しかし、現代社会では言語をひとつしか話さないという人が徐々に少なくなってきています。いずれ日本語と英語を話すことが必要だと考えると、幼少期の言語発達の遅延はそれほど大きなダメージとは言えないかもしれません。

 日本語がしっかり話せるようになってから英語学習を始めるのにも長所があります。それは、学習初期のスピードです。日本語が話せるころには、考える力が発達してきており、言語を分析して学ぶことができます。その分、英語の用法を分析して、語彙や文法を理解して身につけるため、学習速度が上がります。逆を言えば、幼児には文法の説明が通じないので、こども自身が語彙や文法を理解して、自ら言葉を発するまで、時間をかけて学ぶ必要があります。一般的に、幼児英語教育を選択する親は、早く学習効果を実感したいので、こどもが自ら英語を口にするのを待てず、学習した英語をこどもに使わせたがりますが、それが学習の妨げになることもあります。

 お子さんの将来とご自分が親としてやってあげられることをよく考えて、幼児英語教育を取り入れるかどうか考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

Q.46「どうして日本語とおなじように英語を覚えられないの?」

 高校1年のタカシと言います。僕の通う高校は英語に力を入れていて、ほぼ毎日英語の授業があります。先生に理由を聞いたら、英語は毎日触れないと身につかないからだそうです。でも、それならわざわざ授業をするのでなく、英語のニュースを見たり、洋楽を聞いたりするのでもいいと思うんです。そもそも日本語を話すようになった時に、日本語の授業を受けたことなんてありません。どうして日本語を習得したとの同じように英語を身に付けることが出来ないのでしょう?たとえばアメリカとかに住んだら、日本語と同じように話せるようになりますか?(タカシ、16歳、学生)

 

授業は学習効率向上のため

 日本語は授業を受けなくても話せるようになったのに、英語はどうして授業で学習するのかという疑問を抱く人は少なからずいると思います。これまでの言語習得における研究でわかっていることを踏まえて、質問に答えさせてください。

 まず、どうして日本語を習得したのと同様に英語を習得できないのかという質問に関してですが、ひとつには、日本語がとても上手になったからだと考えられます。人間の社会生活において言語は不可欠です。そのため、人間は社会生活の準備をするために、赤ん坊のうちから、周りの人間が使用する言語を観察、分析し、どのように使用されているのか理解できたら、言語を発し始めます。そして、大抵の場合、英語学習を始める頃には、母国語でのコミュニケーションには困らないレベルになっているはずです。ひとつの言語が高いレベルに達した後では、その言語力をリセットして新しい言語を母国語のようにゼロから学ぶのが難しくなります

 

次に環境が重要です。日本人が日本語を習得する条件として、四六時中、日本語でコミュニケーションを取っている人が周辺にいるという環境が重要になってきます。その環境がなければ、日本語すら習得できないといえます。逆を言えば、環境さえあれば、英語も日本語と同じように習得できる可能性があるということです。両親の仕事の都合で、幼少期に英語圏に移住したこどもたちは、家庭内以外の日常の社会生活で、コミュニケーションをほとんどゼロの状態からやり直すことになります。この条件が、いわゆるバイリンガルを育てる環境となって、日本語も英語も同様に習得できるようになると考えられます。

 

ただ、脳が成長し発達すると、英語の文法、語彙、発音などを体系的に学習して学習効率を上げることができます。これが授業で学習する英語です。この学習方法ですと、物事を論理的に考えられるようになってからの方が、学習効率がよいことがわかっています。しかも、学習頻度は習得度に大きく影響するので、学校で英語の授業がほぼ毎日行われるというのは納得です。

 

日本にいながら英語習得を目指すのであれば、毎日行われていても授業だけではやはり不十分です。なので、英語でテレビを観たり、友達と英語で会話したり、英語で音楽を楽しんだりと、無理のないレベルで日常の社会生活の中で英語に触れる機会を増やせばどんどん英語は上達します。学校の授業で体系的に学んで家庭では英語を実際に使うということが、日本にいてできるベストな英語学習環境ではないでしょうか。是非、試してみてください。

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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 特任准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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