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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.122「通信制大学を卒業するために必要な英語力を養うには?」

私は高校卒業後大学へは行かずに社会に出たのですが、今年から慶応義塾大学の通信教育課程へ入学しました。

それで、大学卒業を目指すにあたり、総合課程の英語の単位を取らなくてはいけません。

しかし、私の英語レベルは正直なところ中学1.2年くらいまでで、ほぼゼロからのスタートです。

通信教育課程の場合、卒業までは8年くらいかかると言われているので、時間をかけてコツコツやっていくつもりです。そこで、一番のネックになるのが、英語です。通信教育課程の英語テキストは4冊あるらしく、最低でも英検2級以上の英語力が必要なようです。

今の状態だったら刃が立たないと思うので、英語の単位を取得するために、どういった学習方法で、どういった教材などを使ったらいいか、アドバイス頂けましたら幸いです。

お手数ですが、よろしくお願いいたします。

(39歳、不動産業)


 

必要な英語力をCEFRで考えてみよう!

まずは、大学ご入学おめでとうございます。社会人となってから大学に入学し勉強されるということで、大変有意義な学びとなることは間違いないと確信しています。その中で、英語の単位についてご心配されているということですが、まだ時間があるようですし、必ず単位が取得できるよう英語学習を進めていくお手伝いができれば嬉しいです。

さて、現在のレベルは中学1、2年生レベルということなので、基礎からはじめた方が良さそうです。まず、国際的に使用されているCEFR(the Common European Framework of Reference for Languages)という英語のレベルを表す指標を使って、現在のレベルと目標である英検2級合格レベルについて説明させてください。こちらのCEFRというのは、英語でのコミュニケーションがかなり限られている初級者(A1)から、ほぼネイティブのように英語が使える上級者(C2)までを全6レベル(A1, A2, B1, B2, C1, C2)で表しています。現在のレベルである、中学1年や中学2年レベルは、この6つのレベルのA1というレベルです。英検2級合格となると、これは中級レベルに達してB1レベルとなります。

 

レベルアップまでに必要な学習量

さて、このCEFRのレベルを上げるためにはどのくらい学習時間を要するのでしょうか。ケンブリッジ大学のガイドラインによると、CEFRのレベルを1つあげるのに約200時間必要とされています。この200時間というのは、有資格の英語教師のレッスン時間の総計を表しています。1レベルアップで200時間なので、A1からB1まで2レベルアップとなると、約400時間のレッスン時間が必要ということです。このレッスン時間というものを解釈するのにもうひとつ重要なポイントは、これだけのレッスン時間を確保すれば、誰でもA1からB1にレベルアップできるという意味ではないという点です。この数字はあくまでもガイドラインですので、これまでの言語学習の経験、どれくらい本格的に学習するか、学習者の年齢、授業外の英語学習あるいは英語に触れる時間などの要因によって、この400時間が500時間になることも、300時間になることもあるということを理解しておく必要があります。

いずれにせよ、学習時間はできる範囲内で確保できることを前提に、どのような英語学習をしていけばいいのか考えていきましょう。

 

まずは基本単語500語から

CEFRで2レベルアップとなると、目標としてはすぐに達成できるものではありません。そこで、まずは確実にA1レベルで出来るべき能力を身につけることを目標にしましょう。それを行う前提として、どうしても優先的に克服しておきたいのが、基本単語です。ある語彙の研究者の研究により、言語学習をはじめるときには、まず基本単語500を覚えることが重要だということがわかっています。おそらくこの500単語にはaやtheやisなども含まれているので、すでに約200語はご存じだと思いますが、残りの300語程度はしっかり覚えてください。これらの基本単語は、あらゆる英文に含まれているので、これが分かっていないと後の英語学習に悪影響が出てしまいます。レベル別に整理されている単語帳も販売されていますし、インターネット上にも、無料でダウンロードできる教材やYouTubeもあります。「500 basic words」や「500 most common words」などで検索してみると良いと思います。500語の覚え方ですが、単語カードにしてもいいですし、ノートに書いて覚えるのもいいでしょう。ご自身が最も反復しやすい方法で覚えると良いと思います。反復が成功のカギなので、反復できる方法を優先すると上手くいくことがよくあります。

 

英語を使える自分を想像し、モチベーションアップに!

さて、この500語が理解できるようになった後、ぜひやっていただきたいことは、英語を使用している自分を想像することです。これは英語を学習するモチベーションを明確にするために重要なことで、これが明確になっていると、先ほどの学習時間を短縮することも期待できます。そもそもの英語学習のきっかけは単位の取得とのことでしたので、ここでいう英語学習とは多少異なるかもしれません。ですが、A1レベルを確実にするために、身近なことを英語で話している自分を最初にしっかりとイメージすることです。A1レベルは、ごく簡単な日常的に起こりうる出来事のうち、とくに自分に関する出来事を話したり、自分の好きなものや嫌いなもの、そしてその理由を簡単に説明できたりするというレベルになります。そのような内容を英語で話している自分の姿をはっきりと思い描いて、学習に入ってください。

 

英語学習のはじめはリーディングから!

では、実際に英文を使った練習に入りましょう。学習には何か教材があるとやりやすいので、自分のレベルにあった教材を購入することをお勧めします。リーディングとリスニングの教材があるといいので、どちらも含まれているもの、たとえば英検4級の問題集などでもいいでしょう。

まずは長文を読む練習をしましょう。先に覚えておいた500単語の知識を使って、できる限り英語から日本語に訳さず、そのまま読み進めていきましょう。この際、下線を引いたりメモを取ったりせず、テキストの長文は綺麗なままで読むことをオススメします。分からない単語が登場したら、ノートの左端に縦に並べるように書き出しておくと、後に単語学習に使いやすくなります。長文を読み進めてみて、分からない単語があっても文章全体の大意を把握できたかどうか確認しましょう。テキストには解説があるので、そちらを確認のために使用しても構いません。

大意を把握したら詳細の学習に入ります。理解できなかった単語がノートに書き出してあると思いますが、それぞれの単語の意味を調べましょう。複数の意味がある単語に関しては、テキストで使用されている意味を書き出します。その他、できれば発音記号なども書いておくと後にリスニングの学習をする際に役立ちます。単語の意味をすべて書き出したら、その単語学習をしましょう。その単語をしっかり覚えたことが確認できたら、テキストの本文を再度読みましょう。ここで、英文だけで意味が理解できたかどうか確認します。文法の構造などによっては、個々の単語の意味が分かっても英文となると理解できないこともあります。テキストの解説や和訳を頼りに、自分の解釈が合っていたかどうか確認して、再度テキストの本文を読むだけで意味が理解できるようになったかどうか、確認をしてください。このステップを怠ると英語学習は進まないので、必ず「英文だけを読んで、意味が理解できる」というステップを踏むように学習を進めてください。

 

リスニング学習における、二つの方法!

さて、同じように行うべきなのがリスニングです。リスニング教材を聞く際は、大きく分けて二つの方法でリスニング練習をすることをオススメします。まずは、全体を聞いて、大意を把握するリスニングです。これは、細かい箇所を聞き取る必要はなく、聞き取ったら大まかでいいので、内容をひと言でメモしておくなどするといいでしょう。

それが終わったら、詳細を聞き取る練習をしましょう。おそらく、聞こえてこない部分があると思います。聞こえた部分と聞こえてこなかった部分を明確にするために、ディクテーションをしてみてください。ディクテーションというのは、聞こえてきた英文を一字一句書き起こす練習です。これによって、聞こえた箇所と聞こえなかった箇所が明らかになります。該当箇所が聞こえてこなかったのには、いくつか原因が考えられます。まず、その単語を知らない場合です。知らない単語は何度聞いても聞こえてきません。テキストにはスクリプトがあるはずなので、それで確認して単語ノートに書き出し、単語学習に使用してください。

次のパターンは、その単語は知っているが発音を知らない場合です。たとえば、Signという単語を長文で学習していたとしても、gを発音しないことを知らなければ、なかなかリスニングですんなり聞こえるようにはなりません。このような場合には、単語ノートに発音情報を付け加えておくといいでしょう。そして、もうひとつのパターンは、単語と単語の繋ぎ目が分からない場合です。英語は、表記上は単語と単語の間にスペースがあるのですが、話す際には、このスペースのような息継ぎはありません。

たとえば、

Mike lives in New York.

 

という文ですと、livesのsとinのiが繋がってlivesinのように聞こえますし、in New YorkもinのnとNewのNが一つになってiNew Yorkというように聞こえてきます。この場合は、繋がっている音の箇所を探して、実際の音声とスクリプトを比較して聞き取りの練習をしたり、実際に繋げて発音してみると、少しずつ聞こえてくるようになります。

このように、ディクテーションは聞こえてこない部分にフォーカスして学習を進めることができるので、学習効果も期待できます。しかし、これは毎回やると時間がかかり過ぎてしまうので、行うのはリスニング教材2~3本につき1本程度で構いません。ディクテーションをしない時には、聞こえてきた部分については書き出す必要がないので、聞こえなかった部分をスクリプトで確認して、書き出して学習を進めていくといいでしょう。

 

アウトプットの練習は、まずはライティングから!

ここまではリーディングとリスニングといういわゆるインプットの練習方法に絞って紹介してきましたが、スピーキングやライティングのアウトプットの練習も必要です。初級者のうちは、まずライティングの練習を行ってからスピーキングの練習をするといいでしょう。たとえば、英検のスピーキングテストでしたら、最初の音読問題を除いた他の問題を使用して、答えを書き出してみましょう。自分の答えを書き出したら、模範解答と照らし合わせて、どこをどう答えればよかったのかなど考えて、自分の解答に修正を加えましょう。修正を加えたら、今度はその英文を見ずに英語で答えてみましょう。このように一度ライティングで英文を書いてからスピーキングの練習をすると、すぐに出てこない単語で表現できますし、それを後から声に出していうことで、反復練習も兼ねていてとても良い練習になります。

このようにやることは山積みですが、CEFRをB1レベルまで上げていくには、少しずつでもいので継続学習が不可欠です。毎日少しずつで構いません。是非、毎日続けて、英語の単位を取得してください。応援しています。

 


●編集部より:英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!


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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 特任准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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