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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.128「留学の準備に大切な3つの学習方法」

将来的に留学をしたいと考えていて、アカデミックで使われる語彙を習得したく、オックスフォード出版から出ているthe very short introductionを読んでいるのですが、読むのが難しく、なかなか進みません。1ページの中にわからない単語が10から20くらいあります。内容自体も難しいのだと思いますが、こうした場合単語帳で勉強してから読み始めたほうが良いのでしょうか。それとも多少時間はかかっても、読み進めていくべきなのでしょうか。(23歳、学生)


 

留学の準備には、精読、語彙学習、多読を!

将来留学するための準備としてThe very short introductionsシリーズに目をつけた点はさすがです。様々なアカデミックなトピックについてうまくまとめられている読み物ですから、留学先でどのような分野の学問を専攻するにしても、その基礎となって役立つことは間違いないです。ただ、ご経験されているように、アカデミックな内容が書かれています。加えて、もともと英語学習者向けに書かれたものではないため、語彙表現はかなり難しいかと思います。せっかくなので、このシリーズを利用する方法とそれ以外にも留学準備のためにおススメの学習方法を紹介させてください。

 

まず、The very short introductionsシリーズについては、多々ある本のうち、自分の得意分野に関する本を選ぶのが大事です。これは、すでに知っている知識があるので、たとえ専門知識が英語で書かれていたとしても、読みやすくなります。新しいことを学ぶためのリーディングは、もう少しレベルが上がってから挑戦するほうが、英語学習という点でも賢明だといえます。

 

1文1文を自分に適したペースで精読する!

次に、実際に読んでいく方法ですが、これは、すらすら読み進めることを目的にせず、1文1文しっかり読んでいく精読をしましょう。中学校や高校で、テキストにある長文を使用して、語彙や文法の学習をしたと思いますが、それを行ってください。知らない単語や文法は、すべて辞書や文法書などを使用して調べ、語彙については、ご自身の単語帳あるいは単語カードを作りましょう。その単語帳や単語カードはいつでも見られるようにしておくと、繰り返し学習ができて効果的です。

 

学習量ですが、1日1ページ、それだと多すぎるようなら、1日半ページずつでもいいですし、1日5行だけでも構いません。必ず毎日継続できる分量で行ってください。そして、学習した文章は、必ず英文だけを読んで理解できるかどうかを確認してください。時々、前に学習した箇所を読んで、内容がしっかり理解できるかどうか確認しましょう。できなかった場合には、その原因が語彙知識によるものか、あるいは文法知識によるものかという分析をして、辞書や文法書などを使用して、再度学習し、理解できるようにしておきましょう。この学習を繰り返して、1冊終わるのを目標にしましょう。一通り終えたら、最初から読み進めてみて、どれくらい理解できるか確認しましょう。すらすら読み進められない場合には、単語帳や単語カードを見るなど復習をして、英文だけで読み進められるようになるまで繰り返し読みます。

 

ここで語彙学習についてですが、単語帳の活用は有効だといわれています。自作の単語帳に加えて、アカデミックな内容を読むことを目的とするのであれば、やはりアカデミックな語彙を体系的に覚えておくのが効率的です。かならず抑えてほしいアカデミック英単語(Academic Wordlist)570語というのがあります。これは語彙学習で著名なPaul Nation先生が長年の研究を経て、アカデミックな場面で頻繁に使用される語彙を集めたリストです。これらの単語は、留学した際、テキストを読むとき、論文を読むとき、それから課題を書くときにとても役に立ちますから、必ず押さえておくといいと思います。ウェブ上で、無料で手に入るリストですから、少しずつでも構わないので、この570語をしっかり身につけると、The very short introductionsの精読にも役立ちます。

 

自分にとって読みやすい英文の多読も!

そして、精読とは別に、多読も進めましょう。これは学習という位置づけでない方がいいと思います。この多読で重要なのは、読んでいるものが、すでに知っている単語や文法で書かれているということです。そのためには簡単な教材が必要になりますが、Graded Readersというものを使用するといいでしょう。このGraded Readersはレベル別になっている短い本で、初級者用から上級者用まで英語学習に使用できる本です。内容も多岐に渡っていて、映画化された有名な小説もあれば、伝記や自然現象についてなどのノンフィクションもあります。いずれも短い本なので、比較的安価で手に入りますし、オンライン上で、無料で読めるものもあります。

 

この多読をする場合に必ず守るべきなのが、十分に簡単なレベルのものを読むことです。学習意欲の高い学習者は難しめの本を選ぶことがありますが、多読から得られる学習効果を高めるには、本文の100語あたり知らない単語が2~3語というのがベストです。つまり登場する単語のうち約98%はすでに知っているというレベルのものを読むことで学習効果が期待できます。これくらいの単語を知っていると、文脈から残りの約2%の単語の意味を把握することが可能になります。それによって、その知らなかったはずの単語の意味が理解できるようになっていきます。この偶発的な語彙学習はとても効果的で、語彙の意味を理解できるようになるだけでなく、その語彙の用法に関する知識も自然に身につき、その語彙を正しく使うことができるようになります。これは、辞書などを使用して日本語を介した学習方法とは違い、実践的でいわゆるナチュラルな英語表現がそのまま身につく方法です。その他にも、多読には様々な学習効果が期待できます。読解力、読むスピードも向上するので、多読は是非取り入れてほしい学習方法です。これを学習だと捉えるとあまり続きませんので、興味のある内容の本を買ったら、英語学習のために読むのではなく、内容を楽しむために読書するつもりで続けてください。

 

このように、The very short introductionsを使用した精読と、Academic Wordlistを使用した語彙学習、Graded Readersを楽しんで多読するという3つの方法の組み合わせで、留学までにしっかり基礎となる英語力を身につけてください。応援しています。

 


英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。英語学習についてのご質問はもちろん、留学のご質問なども受け付けております。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!


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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 特任准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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