朝日出版社ウェブマガジン

MENU

教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.136「毎日の適切な学習量は?レベルは?方法は?」

仕事を休職して時間ができたこともあり、英語の勉強を集中してやっていて、1日3時間くらいは勉強するようにしています。今はTED を1日1クリップ見る、英字新聞(New York times やThe Jpan Timesなど)を1記事読む、あとはTOEICの問題を解くことを課題にしていますが、ふた月くらいやっていても、正直あまり英語力が上がった実感がありません。結構毎日きつくて、できない時もあるのですが、やる量が多すぎるのでしょうか?それか、やり方がいけないのかなと思っています。

正直、やる量が多いのでさらっと流して、やってるつもりになってしまっている部分も少なくないです。でも、英語で仕事をしたくて、気持ちとして焦っているところがあります。

急がば回れで、量を減らしてやっていったほうが良いでしょうか?また勉強方法も自己流なので、リーディングとリスニングの良い勉強方があれば教えて欲しいです。

(TS、41歳)


 

適切なレベルの教材のススメ

休職中に英語の学習をしてスキルアップをしているとのこと、大変嬉しいです。仕事しながらですと、なかなか満足いくレベルで英語学習を継続していくのは至難の業だと思いますし、「今のうちに」という気持ちもとてもよくわかります。

さて、これまでの学習法を共有してくださったので、その方法について私の考えと、これまでそれほど効果を実感できなかった原因として考えられることについて、ここにまとめさせてください。今後の英語学習にお役に立てば嬉しいです。

これまで英語学習にご使用になった教材ですが、TEDトークも英字新聞もTOEICの問題も、学習効果が期待できるものになると思います。ただし、いずれもレベルや長さやトピックなどが様々ですから、その選び方と使用方法には注意が必要です。

 

TEDトークを使った効果の高い学習方法!

まずTEDトークについてですが、興味深い内容のものが多く、私自身もTEDトークによって様々なことを学んでいますし、私の授業でも教材として使用することもあります。ただ、英語学習の教材としてTEDトークを利用するのであれば、まず、9割くらいの内容が理解できるものを選ぶといいでしょう。TEDトークは日常的な話題から最新の医療や最先端技術に関するものなど、様々なトピックがカバーされています。加えて、使用されている英語レベルもトピックによって様々なので、ご自身のレベルに合ったトークを選ぶのがいいでしょう。タイトルを読んで、興味の持てそうな分野あるいはよく知っている分野のトピックを選んで、最初の1分間ほど聞いてみましょう。それで9割くらい理解できるようであれば、それを使用してください。

自分にあったトークを選択できれば、あとは学習です。まずは、字幕なしでひと通り聞いてみましょう。その際、理解ができなかった箇所については、後にその箇所の学習ができるように再生時間をメモしておきましょう。字幕なしで聞くのは2~3回でいいと思います。それでも聞けなかった部分については英語字幕ありにして再度視聴して、表現の学習をしましょう。聞き取れなかった部分の表現をノートなどに書き取り、辞書などを使用して意味の確認をしてください。それが終われば、再度字幕なしの視聴をしてください。表現の学習を終えたら、この字幕なしの視聴をすることがとても重要になります。ここで、英語だけで内容を理解することを必ず経験してください。

 

英字新聞も継続学習を見据えた記事選びを!

次に、英字新聞ですが、TEDトークと同様にご自身のレベルにあった教材を選ぶことが重要になります。レベルが高すぎて、知らない単語で埋め尽くされた記事を毎日続けて読むのはかなり難しいと思います。

継続学習は英語学習において最も重要なので、記事の内容を楽しみながら、あるいは内容を学びながら続けるのが理想です。英語学習のために記事を読むのではなく、情報を得るために記事を読むことを是非心掛けてください。可能であれば、すでに理解できる語彙表現ばかりで書かれていて、知らない語彙表現があまりない記事を選んで読むのもいいでしょう。ただ、そのような都合のいい記事はなかなか見つからないと思います。そこで、ある特定の内容の記事を継続して読むことをおススメします。

継続して英字新聞を読んでいると気づくと思いますが、同一の事件、事象について数日あるいは長い場合には1年間以上に渡って最新情報を報道することも少なくありません。その場合、最初の頃は、知らない語彙表現も多く含まれていて、辞書などを多用しなければならないかもしれません。しかし、継続して関連記事を読み続けていくと、学習した語彙表現が何度も登場し、次第に辞書なしでかなり理解できるようになります。

 

自分のレベルに合った問題を解くことがスコアアップの近道!

最後にTOEICの問題を解くことについてですが、こちらもレベルに注意が必要です。ご存じだと思いますが、TOEICでは950点と990点の差を見極めるための問題も含まれています。こうした問題は、例えばTOEIC600点の人が正解を目指す問題ではありませんので、この難しすぎる問題を正解するための練習は苦痛になりかねません。

現在のご自身のレベルに合わせて、一般的に最後の方に登場するような問題は正解しなくても良いとしておくことが、精神衛生上重要だと思います。ご自身のレベルに合わせた参考書や問題集を使用するのも有効な方法です。

 

それでは、これまで行ってきた学習法で、まだ効果が感じられないのはどうしてでしょうか。もちろん、使用した教材のレベルが合っていないということも大きな要因ですから、もし合っていなかったと感じているようでしたら、是非レベルの調整をしてください。おそらく現在のレベルですと、スムーズに理解できる文章に出くわすことがそれほど多くないと思いますので、いつも難しいと感じてしまっていることが原因だと考えられます。

そして、他に考えられるのは、2か月間という短期間ではあまりご自身の英語力が上がったことを実感するのは難しいということです。今までこれだけ努力していますから、英語力が向上したことは間違いありません。ただ、それを実感するとなると、主観的な「実感」ではなく、客観的な指標が必要になります。TOEICのスコアももちろんそのうちの一つですが、2か月前には知らなかった語彙表現が今は知っているなど、具体的に成長したことが分かるポイントがいくつかあるはずです。そのような具体的な成長の跡を探すのも、英語力アップを実感するのには重要かもしれませんし、次の学習へのモチベーションにも繋がります。ただ、英語力の向上は知らないうちに起こるものだと考えて、無理のない範囲で継続するのもいいと思います。安心してください。英語力は間違いなく上がっています。

 

「精」と「多」の同時進行と習慣化

ここまで、ご使用されてきた教材について少し説明させていただきましたが、ここからはリーディングとリスニングのおススメの学習方法ついて、そして学習量について私の考えを紹介させてください。

最初にリーディングの学習方法についてですが、これは精読と多読の二つの方法を同時進行で進めるのがいいでしょう。最初に精読ですが、ご自身の現在のレベルで9割くらい理解できるレベルの教材が適していると考えられます。それ以上難しい教材ですと継続学習が難しくなりますし、簡単過ぎる教材を使用しても、精読で得られる学習効果としては物足りないものなってしまうかもしれません。

精読では、その名の通り、一字一句丁寧に理解していきます。文章中に登場する語彙表現はもちろんですが、文法事項もしっかり学習していくことを目指してください。

個々の文を読んで、どのような文構造になっているか、どのような語句が使用されているかなど、細かいところまで読み進めます。理解できない部分は辞書や文法書を使用したり、身近に英語教師がいるなら聞いてみたりするのも良いです。最近では生成系AIでも、文法解説をしてくれますが、回答はおおよそ間違ってはいなさそうです。

このように、現在のレベルの一段階上のレベルの読み物を丁寧に、英語を学習する目的で読んでいくと、語彙表現の知識が向上し、読めるようになる英文のバリエーションが増えていきます。

しかし、精読を続けても流暢に読めるようになりません。精読では和訳に頼ることも多いので、英文を英語のままで内容を理解する練習が別に必要になります。

そのために必ず行っていただきたいのが多読です。これは、文章中の98%以上の語彙表現を知っている教材を使用するのが望ましいといわれています。よく使用される教材ではGraded Readersという簡単な英語で書かれた本が数多く出版されています。多読の目的は内容を楽しみながら、ひたすら読み進めて大量に読むことですので、このGraded Readersをたくさん読んでみましょう。

多読では、読むスピードも語彙表現や文法の知識も向上し、読解力アップも期待できるといわれています。それは、他の大部分が理解できるため、知らない表現が登場しても止まることなく読み進められ、おおよその意味が推測できるからだと考えられます。また、内容を楽しむためにそれほど重要ではない語彙表現は理解できなくてもあまり気にならなくなり、効率よく大意を理解することができるようになることもリーディング力には重要です。

多読によって得られる学習プロセスは、母国語の習得に近いです。そのため、多読で得た新しい語彙表現を和訳することはできるようにならないかもしれません。しかし、その表現を文中で使用することが、可能になるともいわれています。

 

実はリスニングもリーディングと基本的な考え方は同じで、精聴と多聴を同時進行で行うのが理想的です。

まずは、ご自身のレベルに合わせて9割くらい理解できる音声教材を使用して精聴をしてください。最初はスクリプトなしで何度か音声を聞き、それでもわからない箇所はスクリプトを使用して、語彙表現や文法事項の学習をしましょう。それが終わったら、必ず再度音声を聞いて、音声のみで内容が理解できることを確認してください。この最後のステップを省略するとリスニング力アップにうまく繋がらないので、必ず音声だけで英語を理解する経験をしてください。

多聴についても、多読と同様、辞書やスクリプトなしでもほとんど無理なく理解できる音声教材を使用するのが望ましいでしょう。ただし、そのような都合の良い音声教材はなかなか見つけるのが大変です。多読で紹介したGraded Readersには音声付のものもありますし、オンライン上でも簡単な英語のみで話された英語で収録された教材があります。少し手間はかかりますが、コンピュータでテキストを音声化する機能もあるので、それも利用できます。ご自身のレベルで、内容をほとんど理解できる音声教材を探し、語彙表現や文法の学習目的ではなく、内容を楽しむことを目的にして、大量に聞いてください。ここで最も重要なのは日本語を介せずに理解して、内容を楽しむことです。日本語に訳さないように注意しながら聞き進めてください。そうすれば、英語を英語のまま流暢に聞き取りができるようになっていきます。

 

たとえ短くても、楽しんで学べる量を毎日行う!

最後に学習量についてですが、毎日3時間という大学受験勉強のように英語学習をすることに、プレッシャーを感じる必要はありません。英語学習や英語を使って内容理解を楽しみながら継続して学んでいくことが難しくなってしまっては、本末転倒です。たとえば、3か月後に海外出張が決まっているなど、差し迫った理由がないのであれば、短時間でもいいので継続を優先してください。

たとえば、「毎晩歯を磨いた後に、5分間だけ多読をする」など工夫して、ほんの数分間でも構わないので英語で内容を楽しむ時間を設けてみてください。学習となるとやらなければという義務的な気持ちが先行してしまいますが、内容を楽しむ時間であれば、「続きが読みたい」というような前向きな気持ちで継続できます。もちろん時間もやる気もあって、英語学習をする日は是非しっかり学習してください。ただ、忙しくて机に向かって辞書などを使用した学習ができなかった日でも、この習慣化によって英語に触れた時間はゼロではなくなります。ある研究によると、週に1回2時間学習するより、1日10分間週5回学習する方が、学習効果が高くなることもわかっています。数分間だけでもいいので、とにかく毎日英語に触れる時間を作って、英語を使うことを楽しんでください。

 


★編集部より★

英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!


英語お悩み相談室 質問受付フォーム 

バックナンバー

著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる