Q.141「英語学習におけるインプットとアウトプットの割合は?」
最近、大学生ぶりに英語の勉強を再開しました。今はTOEICのスコアアップを目指しつつ、書いたり話したりする力を高めたいと思っているのですが、あまり思うように成果が上がらないなと感じることも多いです。
英語のコーチングサービスも利用していて、「インプットとアウトプットをバランス良くやっていきましょう」とよく言われるのですが、具体的にどれくらいやれば良いのでしょうか。コーチングサービスでは見てくれる人がその時々で異なり、インプットとアウトプットの割合も人によって違うように感じます。アウトプット多めの人もいれば、インプット多め、あるいは半々の割合で学習するのが良いと言う方もいます。もし適切な割合などあれば教えていただきたいです。
また、インプット・アウトプット共に、基本的な学習方法をお教えいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
細かい診断をして、インプットとアウトプットの量を調整しましょう
しばらくぶりに英語学習を再開されたとのこと、大変嬉しいです。コーチングサービスも利用されているということで、本格的に英語力アップを目指していらっしゃるのですね。これからの成長がとても楽しみです。
さて、インプットとアウトプットのバランスに関するご質問ですが、これは研究者の間でも見解は様々です。中にはインプットを重視すべきだと主張する研究者もいれば、そうではなく、インプットとアウトプットは半々くらいにすべきだと主張する研究者もいます。これまで相談された英語学習アドバイザーの方々には、それぞれの学習経験、教育、コーチングの経験を基にした考えを共有してくださっているのだと思います。
そして、私の個人的な意見は、個々の学習者の目標を達成するプロセスにおいて、弱点を強化するためにインプットとアウトプットの量を調整する方法が適切だと考えています。
インプット学習の前に、まずはできること・できないことの確認を!
まずは、弱点を知るために、現時点でのレベル診断が重要になります。これは単にTOEICのスコアが○○点という大まかな診断ではなく、現在出来ることと、できないことを細かく知る必要があります。
たとえばリスニングでは、
①音声が聞こえてきて個々の単語を認識できるかどうか ②認識できたぞれぞれの単語の意味が理解できるかどうか ③理解できた個々の単語を基に、文全体の意味を上手く理解できるかどうか |
というような段階に応じた診断が必要になります。
例えば①の段階で、知っているはずの単語が聞こえてこないことがあると思います。その原因のひとつとして挙げられるのは、Readingの語彙とListeningの語彙の差です。Readingの語彙を重視してきた学習者には、読んで意味の分かる単語でも音声としては理解できないという事態が起こります。この場合リスニングによるインプットの量が圧倒的に不足しています。語彙学習というと、単語帳などで綴りと意味を確認していくことが一般的であり、さらに意識の高い学習者は例文も確認し、どのようにその語句が文中で使われるのか、他のどのような語句と一緒に使われるのかなどを学習します。ですが、音声に頼って語彙学習をする学習者はあまりいません。少なくともListeningの語彙をReadingの語彙レベルまで高めていくことは重要なので、読んで理解できる単語が耳にもしっかり聞こえてくるまではリスニングによるインプット重視の学習をするといいでしょう。
次に②の段階で、個々の単語は認識できても意味がわからないことがよくあります。これは語彙学習不足です。語彙学習には、綴りや意味を確認するリーディングによるインプットも、発音を確認するリスニングによるインプットも、その単語を使用して書いたり話したりするアウトプットも取り入れるのが効率的だと考えられます。学習している語彙を含む教材で内容が理解できるものを大量に読んだり聞いたりすると、語彙が身につくとは言われています。しかし、日本にいながら十分な量を読んだり聞いたりするのは、簡単なことではありませんから、目安として練習量をインプットとアウトプットで半々くらいにし、語彙力を上げていくのがいいでしょう。
アウトプットする際には、学習している語句を使用して英文を書いてみて、生成AIなどを利用して添削してもらうと良いと思います。生成AIのアプリの中には、スマートフォンのマイクを使って、ご自身の話した内容をテキスト化してから添削をしてくれるものもあります。うまくテキスト化されなかった語句があった場合には、その原因は主に発音と考えられるので、インプットに戻って発音学習をしてから、再度アウトプットの練習に励んでください。
そして③の段階で躓くケースは、文法知識が不足していることが考えられます。主語、動詞、目的語などの基本的な文構造に加え、分詞などに導かれる句や関係代名詞節など、情報が多くなった文を音声で理解するのには、しっかりとした文法知識が不可欠です。リスニングの際の音声情報は止まってくれませんから、聞こえてきた順に情報を処理していく必要があります。英語の語順のまま理解できるようになるには、意味上の塊を把握する力が役に立ちます。これは、リーディングでも練習できます。長文を意味上の塊ごとに区切ってスラッシュを入れて、塊ごとの意味を理解して、英語の語順のままで文全体を理解する練習をします。リーディングでは、自分のペースで塊を作って意味を把握することができますが、リスニングになると音声のペースに合わせてこの作業を行うことになるので、かなり難しくなります。こちらもインプット中心の練習で身につく力ではあるのですが、アウトプットによって学習を効率的に行うことができます。書くときも話すときも、意味の塊を意識してアウトプットすることで、英文の意味上の塊の構造に慣れていきます。
ここまでリスニングについて詳しく解説しましたが、リーディングは音声情報がないだけなので基本的には②と③の段階の診断によって同様の学習をすればいいでしょう。
自分の言葉を発信するために
さて、ここからはアウトプットです。ここでアウトプットの定義について再確認させていただく必要があります。シャドーイングやディクテーションや音読をアウトプットだと考える学習者は多くいますが、これらは自らの考えを発していないので、完全なアウトプットとはいえません。シャドーイングや音読は発音のアウトプット練習にはなりますが、語彙、文法に関してはアウトプット練習になっていません。同様にディクテーションも、綴りのアウトプット練習にはなっていますが、語彙、文法のアウトプットにはなっていません。アウトプットの練習は、あくまでもゼロから英文を作ることだと考えてください。
スピーキングについてですが、まず話をする場面設定が必要です。どのような場面でどのような相手に話をすることを想定しているのかによって、使用する表現は異なります。練習する度に、細かい場面設定をすることをおすすめします。たとえば、駅で困っている外国人に遭遇した際に声をかけるのと、海外の取引先の役員が来日した際に接待するのとでは、使用する表現が必然的に違ってくるので、練習では細かい場面設定をすると今後の英語学習に活かされると思います。場面設定ができたら、話したいアイデアが必要です。そのアイデアを言語化する際には、
①その場面でそのアイデアを言語化するにはどの語句を使用するべきかという語彙知識 ②それを意味の分かる語順に並べる文法知識 ③そして、相手に通じるようにそれを伝える発音知識 |
の3つの知識が必要になります。
まず、①ですが、これを適切に行うには相当量のインプットが必要になります。よく、和英辞典などを利用して、日本語を英語に訳すという作業を行うことがありますが、これは必ずしも相手に分かりやすい英文を作ることにはつながりません。たとえば、「働く」という日本語を例に考えると、会社で「働く」という意味以外にも、いい方向に「働く」や不正を「働く」というような別の意味の「働く」があります。英語のworkにも、She works as a doctor.のようにいわゆる「働く」という意味で使われる場合もあれば、She works on an important project.(ある重要なプロジェクトに取り組んでいる)のように「取り組む」という意味になったり、The computer doesn’t work.(そのコンピュータは作動しない)のように「作動する」という意味もあります。これらの表現の使い分けができるか否かは、これまでのインプットの学習によって、そのような表現を耳にしたり目にしたりして、その知識が蓄積されているかどうかによって決まります。インプットの量によって英語らしい表現ができるかどうかの差ができてしまいますから、この①の段階ではインプット学習も重要になります。
次に②ですが、①の段階ですでに適切な語句を選んでいるので、あとはそれを英語の語順に並べ替えるだけです。最初は単純な文構造から練習していくので、それほど難しくないとは思いますが、表現したいアイデアが複雑になればなるほど、その並び替えも難しくなっていきます。リスニングの練習の際に説明したように意味上の塊をしっかりとらえることは、話す練習の際にも重要ですし、並び替えがうまくいくかどうかはアウトプット練習をしないと気付けないことなので、実際に話してみるということが重要です。
録音をして、自身が話した英文を聞いてみると、多くの気づきがあります。適切な語彙表現が使えているかどうかにも気づくことができますし、語順の間違いにも気づくことができます。このアウトプット練習では、録音をして聞き返すことを強くおすすめします。
そして、さらに重要なのは繰り返しです。録音を聞き返して、修正すべき点があれば修正し、もう一度録音するといいでしょう。日本語と英語は語順の違いが大きいので、日本語話者にとっては英文の語順で表現するのには時間がかかります。ですが、この反復によって、少しずつ流暢に表現できるようになっていきます。この流暢さを向上させるには反復が非常に重要なので、最低でも同じ内容のアウトプットは3回以上行うようにしてください。
③の段階では、先にも述べましたが生成AIやスマートフォンの音声認識機能を利用すると、音声をテキスト化してくれます。これは、相手に通じる発音になっているかどうかのチェックに有効です。テキスト化された英文は生成AIに添削してもらうことができるので、②の段階に戻って、正しい表現ができているか、さらに適切な表現はあるかなど、添削結果からの学びも多くあります。特にこの③の段階の発音に関しては、アウトプットでしか行えない練習ですので、このプロセスではアウトプットが非常に重要になります。
最後にライティングのアウトプットですが、音声認識機能を使用すること以外はスピ―キングの練習と変わりません。①と②の段階の診断で、現時点で何ができるのかを把握しながらインプットとアウトプットの練習をしてみてください。
どのスキルも、大体2~3か月に一度くらいのペースで自己診断をして、調整を加えていくとより効率的に英語力アップにつながります。自分の弱点を知り克服していけるよう頑張ってください。
★編集部より★
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