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教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.109「中学高校の英語教員に求められる英語力はどれくらい?」

現在、都内の女子大の英語英文学科に通っています。英語の先生になりたいと思って今の大学に通っているのですが、留学経験もなく、大学も指定校推薦で入ったので、周りの同級生に比べても正直そんなに英語はできないと思っています。

来年教育実習で母校の高校に行きますが、正直自分が授業で教えられるレベルなのか不安です。昨年受験したTOEICは700点超えてますが、もっともっと高いレベルを目指すべきでしょうか?中学高校で英語を教えるには、どれくらい英語力が必要なのでしょうか?よろしくお願いします。(かなみ、21歳、大学生)


 

「指導力」に注力するために、できるだけ高い英語力を

英語教師になりたいという気持ち本当に嬉しいです。一方、現在の英語力に自信がないということで、おそらく英語教師としてやっていけるかどうかという点で悩んでいらっしゃるのだと思います。実は私もそうでした。ここでは、同じ英語教師を目指した私の体験談と英語教師に必要な英語力について私なりの考えを紹介させてください。

 

横本勝也の個人的な体験 ~経済学部生、英語教師になる!~

まず、私の体験談です。私の場合、大学入学時にはまだ英語教師を目指していませんでした。

スポーツ推薦で大学に入学し専攻は経済学部でした。元々教師にはなりたいと考えていたので、2年になる際、教職課程の履修申し込みをしに大学の事務室へ行きました。そこで知らされたのは、まず、経済学部生だった私が、所属学部で取得できる教員免許は公民科や地歴科であることです。さらに、公民科も地歴科も教員採用枠は狭く、毎年1名あるかないかという現実も知りました。

しかし、事務室の方によれば、英語科の採用人数は、それに比べるとはるかに多く、毎年10名以上あると聞きました。そこで私が、教師になるために思いついたのが、経済学部の科目に加えて、英文学科の科目を履修して英語教師を目指すことです。当時、私の卒業した大学では、経済学部の学部生でも、英語の教員免許を取ることができる制度があったのです。これなら教師になれる可能性があると安易な勘違いをし、そこから英語教師を目指すことになりました。

しかし、教職課程でクラスメートになった同級生たちは、当然英語やフランス語などを専攻にしています。英語が英語のまま読めて、ある程度英語が話せる人ばかりでした。英語力が明らかに低い私は、クラスメートの手厚いサポートのお陰もあり、なんとか単位は取得できましたが、英語教師としての十分な英語力はまだまだ身についていませんでした。

私の英語力の低さを裏付けたのが教育実習でした。大学4年の5月に母校の高校1年生の英語授業を担当することになり、相変わらず英語力のなかった私は、毎日深夜まで何時間もかけて予習して担当授業に臨みました。そうしないと、高校生の前に立って授業を行うことは不可能に思えました。

自分が苦労して予習した英文をスラスラ読み、文法問題も読解問題もさらっと正解していく高校生たちの前に立って授業を進めていくと、予習によって少しだけつけた自信が、ぽろぽろと剥がれ落とされていくのを感じました。

さらに、オーストラリア人のAET(Assistant English Teacher)とのチームティーチングでは、彼が話している内容がほとんど理解出来ず、生徒の前で大恥をかいてばかりいました。これでは英語教師になっても毎日予習に追われ、大変な教師人生を送ることになると感じ、怖くなりました。そこで、英語力を上げるために留学を決心しました。

留学することを決めてからは、毎日英語の学習をしました。TOEFLの試験対策にばかりに時間を費やしましたが、自分で決めた分量を毎日必ず学習する、ということに徹しました。大変な道のりでしたが、それが私の教師としての英語力の基盤を作ったと今でも強く実感しています。

大学院に合格し留学が決まってからも、英語力が教師として十分だったとは思えませんでしたが、この経験を通して必要最低限の英語力はついたと思います。実際に、留学先でもティーチングアシスタントとして授業を担当しました。授業準備に加え、英語で説明する準備をする必要があったので大変でしたが、教育実習のときに感じた絶望的な自信喪失感とは違って、これならやっていけるという実感を持つことができました。

 

英語の運用能力を磨き、言語学的な知識の蓄えを

さて、英語を教えるのに必要な英語力は、検定試験の級やスコアで表すことはできません。しかし、実際に教えてみると、自分の知識で教えることができず、調べる必要があることが分かってきます。調べるのに費やす時間が許容できるレベルで収まるようなら、その教師にとって最低限の英語力と言えると考えています。

ただ、それでも十分な英語力とは言えないと思います。英語力が高ければ高いほど、教師としてできることは増していきます。英語について調べる時間を、指導法について調べたり考えたりすることに費やすことで、指導力に磨きがかかっていきます。

英語力に関しても、指導力に関しても、教師になってからも、ずっと休むことなく磨き続けていく必要があります。それを考慮すると、教師になる前に、できる限り英語力を伸ばしておくことを強くオススメします。

 

また、近頃ではコミュニケーション重視の英語教育へ変革してきているとはいえ、まだまだ受験で問われるのは、実際に英語を使用する能力というより、文法知識や読解重視の英語教育に見られる、正解を一つとする言語学的な知識だと言えます。その対策が求められる中学や高校の教師には、それを指導できる十分な言語学的知識が必要だと思います。

たとえば、

I have read this book three times.

という英文をみて、現在完了形の3つの用法のどの用法か、という知識は別に英語を話す上では必要ありません。しかし、その用法を問われる問題を解く上では、必要な知識となります。将来的にそのような知識がどれくらい必要とされるかどうかは分かりませんが、現在のところ、日本の英語教師にはそのような知識が必要だと思います。

同様のことは、発音でも言うことができます。教師として明瞭な英語を話せるようになっておくことはもちろん不可欠ですが、それに加えて、例えば/l/と/r/の発音の仕方などを指導できるレベルで知っておくべきだと思います。

 

英語力を磨くということは一生を掛けて続けるべきことですが、今できることはすべてやっておく姿勢が大切だと思います。頑張ってください。応援しています。

 


●編集部より:英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!
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著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 特任准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

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