色鳥とささやきはじめる8篇の詩(26年9月)
今回はご投稿いただいた作品の中から8篇、お届けいたします。ぜひご一読ください。
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色鳥とささやきはじめる8篇の詩 ・エンジン ・それが母親というものなのです ・雑炊 ・人生劇場 ・梅雨の街 ・鼻歌 ・筋力 ・重たさとは |
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エンジン 草笛螢夢
最近は地球や人に優しい エンジンが求められ その無駄の無い力が 問われるモチベーションが 流行になっていく
そろそろ私の中の エンジン周りも含め オーバーホールで動きやすい 気力が必要な時期と感じ始めた 今のルールや考え方までも 見直しておかないと スピードオーバーしかねない 周りの状況に合わせて置くことの極めや 必要に応じた対応が迫られる
いざという時のための AIというターボも用意していた方が 良いのかもしれない |
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それが母親というものなのです 無名
子どもを産むことで自らを愛することにしました 愛情という理由を産んだのです 己を愛する不幸を覚え 所有するよろこびに不幸を買うのです 何より恐れるのは理由のなくなることです 最大の不幸にまた酔いしれるのでしょう 未発達のいい事に、現実の論理をたてまえに 牧歌的な狂気を合唱する 映画なんて知らない 正しいとこは教わった 変わらない約束を永遠の契機にしている 詩の二番にはスタッカートで肥える雪だるまを表現する |
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雑炊 南野 すみれ
小鍋の真ん中に落ちた 黄身が 白米の海に浮いている 生命(いのち)が あるかのように 微かに ふるえて
もしも 黄身が宇宙だとしたら その黄身を抱いている白米は なに? 「宇宙の外にはまた宇宙があって」 と頭のなか ああ、それなら納得できる ひとりでに声がでた 地球を去ったわたしたちがいく 宇宙の外の宇宙 あなたはもうすぐ其処へ逝く
形を喪くしていく黄身に 壊れていく人の映像をみている 為す術なく 為す術ない未来を 暦の数字が教えている もう お粥しか食べられない と 昨夜のメール 梅雨寒の朝にあなたを真似て 雑炊を煮ている |

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人生劇場 とし
朝起きて カーテンを開ける じゃじゃん 新しい一日の始まり
雨が降っている お茶の時間はクリスティの短編を読もう
晴れている 水筒を持って少し遠くまで散歩に行こう
風が吹いている トマトの実が落ちない内に収穫しよう
カーテンを開けると その日の予定も自然と決まる
明日はどんな一日にしようか 朝になったらカーテンに聞いてみよう |
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梅雨の街 藤則
蒸し暑い時のなか、私たちはそれぞれ別の場所に身を隠す 窓の外を水煙が覆い、その向こうに 遠い河口がかすかに見える 船は糸のような雨に覆われ、一本の線だけを残している
空は灰色だ。ひどく灰色で、朝から夜明け前まで灰色のまま 通りに人影はなく、自転車に乗る者もいない 道路は不自然なほど静まり返っている 森では木を伐る人が手を止め 立ち尽くし、雲を、雲の中の太陽を見つめている
鉄とコンクリートの世界で、原始の焚き火を探す 一つ、また一つと連なる洞窟に迷い込む 街を一歩進むたび、雨水が 頭皮に染み込み、目眩はますますひどくなる とうとう水たまりの中に倒れ込み 跳ね上がった泥が全身を斑に染めた |
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鼻歌 倉橋謙介
信号を待ちながら 今日はいつもの鼻歌を 原曲に合わせて オクターブ上げて歌っていた 駅をでて 四角い秋の空が 目に入ったからだろうか 夜の裾野が そこに少しずつ広がっていく ここにいる誰にも 僕の歌は聞こえてないみたい どこかにいる君に 向けてるつもりもないけど 忘れられた人工衛星にまで 届いちゃっているような 大きな気持ち 受け取ったつもりの電磁波が 思い出させた優しい面影 |
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筋力 ハッピー詩人鏡ミラー文志
創造性………それは、遊ぶ力 生産性………それは、働きかける力 人間性………それは、敬う力 『失礼』『失敬』を言葉の上で繰り返しながら なにか、触れてはいけないものへの敬意を持つこと
構成力………それは、組み立てる力 ナレーション能力……それは、辿り繋げる力 本質を汲み取り、あるものとあるものを結びつけ 未来へと繋げる力
人は 「理屈だけではいけない。口だけではいけない」 というけれど、キチンとした物事の筋道 道理を弁える骨組みを持てば その筋の良さにやがて肉がつき、それは力となり得る
その溢れる筋力から放たれる健康美は バランスの取れた思想人格者として 身分立場履歴経歴を越えて 人々を魅了することで、あろう |
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重たさとは ヒンヤ
秒なる稼ぎと 一生の結果が どちらが一体 重たいのであろうか
それは分かりようがない
血流の為の稼ぎは 日々として 当然の如く 重き物なのかもしれない
それは生きとし生けるものの 理屈なのであろうか
あの石の静けさなどは 見向きも出来ぬのであろうか
そう言って 夏の日の残酷さは 人々の汗を拭わせるために 今日も無言に 企んでいる |

世話人たちの講評
千石英世より
エンジン
ゆるやかな語りが魅力です。一点、「いざという時」って何か具体例をどう想定するのかを記せば全体が引き締まるようにおもいます。
それが母親というものなのです
論理的な行の運びです。でもその論理をスタッカート的に故意に切断している。そこに意志を感じます。
雑炊
宇宙と食をつなぐ情感に哀切なものがあります。
人生劇場
さわやかな一日をおもいます。そう思うと掛け声は必要だったかしらとおもいました。
梅雨の街
美しい描写がいいですね。それが意外なところに飛躍して終わるのにさらに驚いた。
鼻歌
すなおな行はこびでいいですね。最後の2行は遠慮がちにでた言葉でしょうが、遠慮はいらないのでは?
筋力
提言が詩になることをめざしていますね。となると最終行は推測の語でなく、断言のほうが説得力でるような。
重たさとは
「あの石の静けさなどは」以後いいですね。
平石貴樹より
エンジン
比喩は詩の第一歩ですものね。
それが母親というものなのです
後半わかりにくいですが、まさに現代の女を感じます。
雑炊
いいですね! 尖端への凝縮。
人生劇場
まさに晴耕雨読ですね。
梅雨の街
原始の焚火。ううむ。
鼻歌
鼻歌の小声と大きな気持ちの大きさのバランスがむずかしいです。
筋力
いつも以上に納得できる処世訓です。
重たさとは
詩のはじまりに立っていますね。
渡辺信二より
エンジン
人生のある節目に、自動車の「オーバーホール」の比喩で、生活の見直しを訴えます。それはよくわかる。作品として、さらにもう少し、詩的論理のうねりというか、正反合というか、が欲しい。なお、13行目「極め」は、どういう意味なのか戸惑う。また、「AI」や「ターボ」が「地球や人に優しい」かどうか、確かめる必要がありましょう。
それが母親というものなのです
タイトルや、所有と不幸のロジックなど、言葉の響きや論理が挑戦的で面白いが、意味を考えると、はてなと思う内容で構成されている、意欲的な作品だと受け止めました。AIのハルシネーションを真似つつ、逆手にとっているのかもしれない。具体的な場面や情景を導入できれば、さらに良くなると思う。
雑炊
黄身が、生命=>宇宙=>壊れてゆく人の映像、とイメージを変えながら形を変えてゆく。それが、作品として、よくまとまっています。
人生劇場
生きる喜びが、よく表現されています。タイトルにある「劇場」の比喩を生かすため、「カーテン」に加えて、もう一押しあればとも思う。
梅雨の街
伝統的な梅雨が失われてから久しく、現代の梅雨が不気味に謳われている。気になるのは、第一行目の「私たち」の行方です。「私たち」が作品の進行に従って、消えてゆくのだろうか。というか、探したり、迷い込んだりする動詞の主語は、誰なのだろうか。
鼻歌
鼻歌は本来小声でしょうが、それが「大きな気持ち」にさせる様子に、ユーモアがあります。
筋力
自戒の言葉か、誰かへの進言なのか、微かな洒落を感じる。
重たさとは
このままだと唐突に思える「石」が作品の中で重い意味を担うには、作者だけが知っている「あの」の指す内容を、せめて、読者に暗示するのが良いかもしれない。また、各連の行数にも気配りすると、形式もさらに整うかもしれない。


