Q.146「海外大のオンライン講座を受けるのに必要な英語力は?」
現在、都内の外資系企業に勤めているのですが、社員一人一人に毎年、セルフディベロップメントの費用が付与されています。今までは仕事に関係する本を買って読んだりしていたのですが、最近edXやCourseraなどのオンライン講座の存在を知り、海外大が開講するビジネス講座を受けようと考えています。修了すると認定証が発行されて、履歴書にも記載できるのですが、やはり難易度が高いようです。試しに動画を見てみると、英語も講義の内容も難しく、正式な申し込みをためらっています。もう少し英語力を高めてからにしようとも思うのですが、「習うより、慣れろ」の気持ちで、まずは受講してしまうのもありかなとも思っています。英語力をつけてから受けるか、それとも受ける中で英語力を上げていくか、どちらが良いでしょうか。(なつ、31歳、会社員)
受講したい講座内容に特化した準備をしましょう
最近では、海外の大学が開講しているオンライン講座が増えてきていますね。つい最近目にしたものでは、ハーバード大学やスタンフォード大学といったアメリカの有名大学の実際の講座を無料で視聴できるというサービスもありました。オンライン上であらゆる教育の機会が手に入れられる時代になったのは本当にありがたい限りです。
さて、試しに講座の動画を視聴してみたということですが、その理解度が講座を今始めるべきか、それとも英語力をもう少し上げてからにするべきかの判断に役立つことは確かです。最終的な決断はご自身の目的、目標にもよります。なので、ここでは、今すぐ講座を受講する場合と、その前に英語学習をする場合とに分けて、個人的な経験を基にそれぞれのメリットとデメリットをまとめた後、私なりのご提案をさせていただきます。
時間的なタイミングを考える
まず、今すぐ講座を受講した場合のメリットですが、時間的な要因になります。今受講したいと考えている講座はおそらく現在のニーズに合っているので、今学ぶべき内容を今学べる利点があります。特に新しい技術などにより日々変化していく分野に関しては、今必要だと考えていることは今学ぶことが重要だといえます。そして、学んだ内容を今後のキャリアアップに繋げるにも、できるだけ早く多くのスキルセットを身につけることが重要になりますから、後回しにするより、今学習した方がいいと考えられます。さらに、受講したい講座が今後も開講されるとは限りませんから、受講準備をしてから受講しようとしたときにはもうその講座が存在しなかったという事態を避けられるのも大きなポイントです。私もある大学院の博士課程に出願しようと考えていた際、時間的にも経済的にもまだ準備が整っていなかったため、ある年の出願を見送りましたが、次の募集は数年後になってしまったので、あの時無理をしてでも出願していたら、もう少し早く博士号を取得できたのではないかと考えることが今でもあります。
英語でその内容を本当に理解できるか見極める!
それに対して、今受講することのデメリットとして最も重要なのは内容理解度となります。ご自身の自己診断では少し難しすぎるという判断でしたら、今講座を受講してもそれなりの内容理解度となり、今後のキャリアに活かせる内容をしっかり学習できるかどうかが、不安になります。受講を考えている講座の内容が、これまで英語で学習したことのある分野であれば、うまく理解できるとは思いますが、そうでなければ、理解をすることに時間がかかり、肝心の内容の学習が疎かになってしまう可能性があります。
英語教育のアプローチにCLIL(内容言語統合型学習)というものがあります。これは、教師が内容を学習するのに必要な言語をサポートする形で、言語と内容を同時に学ぶというものですが、ご自身で学習される場合には、その言語サポートをする教師がいないので、苦労するかもしれません。実際、私が修士課程で留学した際に履修した研究方法論の授業では、かなり苦労しました。修士課程の出願の段階でかなり英語学習をしましたし、そこそこの英語力はあったとは思います。実際、ライティング指導法や英文法の講座などでは、英語を学んだ時に使っていた英語表現が多く登場したので、授業の理解にはそれほど苦労はしませんでした。ですが、この研究方法論では、量的な研究で使用される様々な統計や、質的研究の様々な手法、それぞれにおける注意点など、あまり触れたことのない語彙表現が多かた上に、内容にもそれほど詳しくなかったので、テキストに書かれている内容も教授が話している内容も、はじめはうまく理解できませんでした。当時は対面授業しかなく、レクチャーを繰り返し聞くことが不可能でした。私ができることといえば、テキストを何度も読んだり、クラスメートや教授に質問することくらいでした。なんとか単位取得には至ったものの、とても苦労したことを今でも覚えています。
内容理解ができていないなら...
さて、講座の受講を決め、その準備をした場合、なんと言っても最も重要なのは内容理解です。そもそも仕事をしながら海外大のオンライン講座を受講するというのは、知識を身につけ、学んだ内容を今後のキャリアに活かしたいはずです。現段階で英語力がまだ不足しているという実感があるようでしたら、内容を理解できるように準備をした後に講座を受講する、というのはとてもいい考えです。
私は大学で英語教師を目指す学生が受講する英語教授法や第二言語習得論の授業を担当していますが、使用しているテキストも英語で書かれていますし、授業も英語で行っています。授業では理論を学ぶだけでなく、学んだ理論を実践的にどのように教育に生かせるのかを学びます。受講生の中には、まだ英語教育や言語習得の分野の授業を受講したことがなく、その分野の学習をするのは私の授業がはじめてだという学生が毎回数名います。
よく観察してみると、これまでいくつかの授業をすでに受講してきた学生は、専門知識や専門用語の知識がありますから、問題なく授業内容をしっかり理解し、学んだ理論を上手く実践に繋げることがほとんどですが、やはり、理論の理解で多少手こずっている学生は、理論の理解までにとどまり、実践でそれを生かすレベルには達していないことがよくあります。これは実務経験があればある程度解消できるとも考えられますが、内容理解そのものがハードルにならないということは、理解した内容を次のステップに生かせる余裕があるということだとも考えられますから、受講する準備をするというのは賢明な選択だといえます。
一方、デメリットはなんと言っても時間です。先に述べましたが、今そこにある学びのチャンスを先延ばしにすると、その機会そのものを失ってしまう可能性があります。これは、学ぶことに期限がある人にとっては致命的です。たとえば、受講したい講座が将来開講されないかもしれない場合は、まさに今受講すべきですから、準備をするなんてことは言っていられません。他には昇進や転職のチャンスに期限があり、それまでにどうしても身につけなければならないスキルあるいは資格があり、時間的余裕がないというケースもあります。現時点で、講座の動画がどれくらい難しいと感じたかにもよりますが、総合的な英語力アップを目指すのであれば、それなりの時間を要します。それが働きながらとなるとさらに時間がかかってしまうので、このデメリットは無視できません。
目的を再確認し、現実とすり合わせるために受講準備をする!
さて、ここで再度ご確認いただきたいのが受講の目的です。受講する目的は学んだ内容を、今後のキャリアに活かすということで間違いないでしょうか。その場合には、私は多少の準備時間を要しても、英語力という面で受講準備をしてからの受講をおすすめします。そのための準備時間がそれほど長くならないように、ひとつの準備方法を提案させてください。
まず、受講したいと考えている講座の分野の入門書のような書籍を手に入れてください。オンラインで無料で手に入るものでも構いません。そして、その文献をしっかり精読してください。そこで使用されている語彙表現を、辞書や機械翻訳などを利用しながら、とにかくしっかり細かく熟読してください。語彙や表現の学習はリーディングを通して行う方が効率よく進められるので、ぜひその文献を使用して語彙と表現の学習をしてみてください。そうすると、その分野に関する基礎知識も身に付きますし、専門用語もある程度身に付きます。ひと通り読み終えたら、音声で聞き取る練習をしてみてください。現在ではあらゆる分野の専門的な動画が無料で視聴できますから、それほど難しくない入門レベルの内容の動画を選んでいくつか視聴してみてください。リーディングである程度の知識を得ているので、その分野に関しての理解度は上がっているはずですし、発音に馴染みのない語彙や表現が登場したら、キャプション機能を利用して、聞いて理解できるようにトレーニングできるので、講座を受講する準備のための学習に向いています。
すでに日常的に英語を使用しているようであれば、ご自身の学びたい講座の内容に特化した準備は、数か月で整うと思います。それほど時間のロスもなしに、しかも今よりも理解度を高めて受講できるようになるので、おすすめです。仕事しながらの学習は容易ではありませんが、努力は必ず報われますから、全力で準備して最大限の学びを得てください。
★編集部より★
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